気配、魂…
大江さんの「卒業」に導かれて、魂についてもう少し考えたい。
「未来潮流」という番組で、97年に魂についての番組を制作したことがある。
中心の出演者は、カトリックの神父門脇佳吉さんだった。オウム事件の記憶が生々しかった頃でこの番組を作るにあたり、かなり慎重に立ち上げたことを思い出す。
門脇さんは神父であるとともに禅の師家の資格をもつユニークな人だ。日本でも
有数の形而上学者で、上智大学の教授でもあった。
門脇さんの名は、大江文学を独特の視点から論じておられることから知った。
現代日本人が魂の奥底から「救い」を求めているにもかかわらず、それに耳をかさない風潮があったからこそ、オウム事件のようなことがおきたと門脇さんは言う。そのことは、大江文学「最後の小説」におけるキイターム(大切な言葉)「救い」「祈り」「恩寵」
「救い主」が現代日本人にとって死語になっていることと、無関係ではないと説くのだ。
日本が繁栄を謳歌している、まさにそのとき、オウム事件は起きた。それは当然の帰結ではないかと、門脇さんは警告していた。
そして、門脇さんは4人の芸術家と話し合った。
加賀乙彦(作家)
梅若猶彦(能楽師)
細川俊夫(現代音楽・作曲家)
蜷川幸雄(演出家)
――魂の存在を知り耳を傾けることこそ、今必要だと師と4人の芸術家は共鳴した。
魂を考えるとき「気配」と
いうものに注意しなくてはならないと、門脇さんは言った。
そのことが、私はずっと気になっていた。
そして、ビクトル・エリセの映像を見たとき、ここに「気配」を感じさせ「魂」を浮かび上がらせていると感じた。
『エル・スール――南』という作品だ。
よかったらランキングをクリックして行ってください
人気blogランキング