雨がシトシト降る晩に
ちょうど10年前の今頃、私は脳内出血のため倒れた。47歳、働き盛りだった。
その前の年の秋から猛烈に忙しい状態が続いていた。
元来、高血圧症と診断されていたが、降圧剤の服用はしたりしなかったりの不養生だった。
まさか、50を前に、倒れるなんてことはあるまいと、タカをくくっていた。
もう一つ発症した理由は仕事に対するストレスだろう。後になって、そう思う。
人事異動があって、私は希望する職場とは少し違うセクションに入っていた。
転勤にともなう送別会や歓迎会が半月ほど切れ目なく続き、酒の量は限界に近づいていた。
その夜は、梅雨が近づいており蒸し蒸ししていた。珍しく会合がなく、気の合う友と
居酒屋へ1軒だけ行くことにした。
8時過ぎに早めのお開き。山手線で私は渋谷から品川に出た。東海道線に乗り換えた。車内は混んでいて、立ちっぱなしだった。途中、川崎あたりから気分が悪くなり横浜で
一旦私は降りた。
小雨が降り始めていた。体が妙にだるかった。
再び乗り継いで、大磯まで帰った。大磯駅のホームに立つと、小雨が頭に降かかり気持ちがいい。
しばし、濡れたまま立っていた。
家にたどり着くと、風呂を浴びてすぐ寝た。
夜中に、急に吐き気がして、ベランダに出た。胃の汚物がピュ-っと飛んだ。
(ずいぶん飛ぶものだなあ)と感心して他人事のように眺めていた。
雨がシトシト降っていた。
――30分後、平塚の救急病院のベッドに私はいた。血圧を測定されていた。看護士が
測りの目盛りを読み上げて医師に伝えている。「150、200、230、240、250」
どこまで上がるのだろうと不安がかすめる。「265…」と聞こえたところで、私は
意識を失っていた。それから3ヶ月の間、私は闘病することになった。
秋に、会社へ出てきたときに詠んだ句
そろそろと出社する日やいわし雲
そして、倒れて1年後に詠んだ句。
六月や 血の濃ゆくなる 月来タる
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