向島のかたくりの花
ロケ隊が百花園のお茶室で長時間撮影に入っていたので、一人離れて、街角をぶらぶら歩いた。
向島――ややウラ寂れた物静かな町だった。家並みは江東のほかの町とよく似たスレート瓦の戸建て住宅がびっしり並んでいる。路地には鉢植えがこまめに並べられてある。玉ノ井や寺島町という花柳小説でよく見かけた町名があちこちにある。日曜午前という時間帯もあったのかもしれないが、とにかく子供がいない。歓声、嬌声がまったく聞こえてこない。ねむくなるような時間が流れている。
百花園の園内にはおおぜいの老人たちがあちこちに群れていた。どうやら団体で春の植物見学に訪れて来たらしい。案内人のような人物の講釈をオトナシク聴いている。どの人の顔も穏やかだ。
園内で一番人気があったのは「春の七草」コーナー。一目で分かるように囲われていて、花のそばに名札がある。すずなはカブで、すずしろは大根を指すなどということは初めて知った。せり、なずな、ごぎょうたちの花や葉っぱが可愛い。
この園に入って、まず目につく築山にかたくりの赤い花がひっそりと咲いていた。写真では見ていたが、現物は初めて。あらためて、東北の山々にこの花が咲いていることを思い浮かべる。ドロ亀先生こと、高橋延清さんがこの花を愛でていたことを思い出す。かつて、シリーズ授業という番組の第1回のゲストだった人物。東大の先生でありながら、教壇に立ったことがないという不思議な人だった。ドロ亀さんは東大演習林の先生で、お兄さんの喜平さんはエッセイストだった。この喜平さんが「カタクリ」という書を著していたと記憶する。
スタッフの若い男子が、芭蕉の丸裸の幹を見て、首をかしげている。「これは、蕗の薹だと思うけど、少しカタチが大きい気がするし・・・」
これはジャパニーズバナナと教えてあげると、目を丸くしていた。いくら何でも、丈が2メートルもある蕗の薹なんてあるはずがないじゃない。でも嗤うわけにはいかない。私も20代はまったく植物なんて興味がなかった。桜の花とスミレの花、これが春の花と覚えていた。
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