このところ多忙
春分の日も仕事だった。来週放送の「極上美の響宴/ジャクソン・ポロック」のMA(マルチ・オーディオ)作業が終日赤坂で行われた。57分のビデオ構成で、ナレーションの分量も半端でない。語りは井上二郎アナウンサーだから長丁場のコメントも安心して聞いていられるが、作業は慎重に進められた。
プロデューサーは旧知の浅野くん。かつていっしょに木村伊兵衛のドキュメントをやったことがある。力のある人だ。彼の指揮のもと作り上げて来たポロックはなかなか見応えのあるものとなった。
今年はポロック生誕100年。それを記念して、現在ポロック展が近代美術館で開かれていて、なかなかの盛況だそうだ。ポロックの名前が注目されたのは、2006年に「ナンバー5」という作品が165億円で売買されたときだ。ピカソを越えたと喧伝された。
番組は、代表作「秋のリズム」をめぐっての逸話を軸に展開していく。
近代美術が宗教や歴史の従属から解放されて、絵の自律を目指して歩んで来た果てにキュビスムまで来て隘路に陥る。そのとき君臨していたのがピカソだ。そのピカソの呪縛を越えたいと、現代アートはさまざまな格闘をするのだが、そのひとりがポラックだった。
彼はキャンバスをイーゼルから下ろして床に置き、絵筆を画布から離して、「垂らす」という技法を発明するのだ。そのアイディアのもとになったのが幼い頃見聞していたネイティブ・アメリカンのナバホ族の砂絵だった。
こうして、ポロックの絵筆から絵の具が滴り落ちて描かれる技法、ドリッピング、ポーリングが生み出されるのは、私が生まれた1948年頃のこととなる。
この番組で面白いのは、この技法を実際にアーチストの石井竜也さんにやってもらうことだ。一見お気楽そうにみえるドリッピング、ポーリングもやってみると至難の技であることがみえてくる。
さらに、オーストラリア在住の物理学者にも「ポロカイザー」という自動描画装置を使ってもらって絵を描くシーンなどもめっぽう面白い。
ポロックの絵は、画面に焦点をもたない「オールオーバー」というのが特徴。見る者の視線をあちこちに散らすというこの概念をはじめて実現したのがポロックだったのだ。この絵は近年の言葉を使えば、「フラクタル」を有していたということが次第に明らかになってくる。全体像と部分がおなじ構造をもつ現象。実は、これは自然のもつ規則性でもあるのだ。
現代アートの革命児であったポロック。だが、その盛りはわずか4年ほどしかない。その後描けなくなり酒におぼれていく。ほとんど自殺に近い交通事故で急死する。ときに享年44。
わが番組の副題は、「飛び散る線の謎〜ポロックの”自然”」。3月28日、BSプレミアムで放送される。
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