応答せず
たしか、花田清輝のエッセーに「ノーチラス号応答せず」というのがあったと記憶する。
有名な吉本隆明との論争で、書かれたものであったはずだが、内容より、そのタイトルの格好よさが心に残った。
3・11以来、震災、津波、原発ということが国民的課題のように、メディアで語られているが、忘れてはならないのが沖縄普天間の問題だ。米軍「占領」という不自然な情況が60年にわたって続いてきて、さまざまな苦難と不利益を押し付けられてきた沖縄が、新たな道を歩くための第一歩にもなる普天間。先の宜野湾市の市長選挙でも、住民の意思は基地を固定化させたくないというものだ。前の政治権力の置き土産だと民主党もシラをきり、先延ばし出来ないところまで来た。これ以上、沖縄に本土の矛盾を押し付けるわけにはいかない。
総合誌「世界」は1月号から沖縄のことを丹念に追っている。なかに、元上司だった人物の論文が掲載されている。元NHK沖縄局長、NHKエンタープライズの取締役だった、座間味朝雄さんの遺稿となった「情報の絆―米軍の情報分断政策と戦った沖縄」。座間味さんは昨年11月に他界した。
この論文が3回にわたり掲載され、今月で座間味担当分は終了した。これは沖縄がアメリカ統治下にあった1959年、日本と沖縄を結ぶマイクロ回線を設置しようとしたことに対して、アメリカ側から再三にわたって嫌がらせを蒙り、なかなか全回線を接続できなかった問題を取り上げている。これまで知られなかった沖縄「独立」の戦いを、座間味さんは丹念に追って、歴史の光をあてた。
だが、後半になると、病が体を蝕み、この事件の原因、理由の解明にまで至ることがかなわない。死が目前に迫っていたのだ。出来ないことが「無念である」という言葉で、この論文は終わっている。
読了して、感銘した。あの温厚で篤実な座間味さんのなかに、これほど父祖の地に対する熱い思い、正義への希求があったことを知って感動した。
ところが意外だったのが、職場の反応だ。これほどの力作に、誰も関心をもっていない。ほとんどのディレクターは論文を読んでもいないらしい。これでは応答などできやしない。
「無念である」という座間味さんの遺言は、歴史の闇に消えた事実の解明を、後生は続けてほしいという呼びかけであったはずだ。
これに応答したのは、私が知るかぎり、先年NHKを退職して武蔵大学の教員になった永田さんしかいない。
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