世界的なアーチスト
昨年の夏、節電騒ぎのなかで上演した「曾根崎心中」を覚えているだろうか。
伝統芸能「文楽」の古典を、世界的なアーチスト杉本博司氏が演出して話題となった。近松門左衛門のオリジナルの筋をそのままに再現し、加えて写真芸術をも加味した。その凄絶な美しさは各界から賞賛された。その舞台を軸に、杉本ワールドをドキュメントしたのが、わが番組「この世の名残 夜も名残」で、ETV特集として10月に放送した。この作品がその10月のギャラクシー月間賞を受賞することにもなった。
その作品を、海外の大きなコンクールに出品することが決まった。日本的な美を求めて作られているとはいうものの、その蒼ざめた美しさは世界にも届くであろうと期待をこめて、海外コンクールにプレゼントされることになった。
本日、そのエントリーの報告で杉本さんと銀座のオフィスで会った。奇しくも杉本さんと私は同年。長くニューヨークで暮らしておられるが、話し込むと、やはり同じ時代を生きてきたという実感をもった。
次は何を企画していますかと質問すると、新作能「小田原」という返事がかえってきた。秀吉の小田原攻めを題材にとって、杉本さんが書き下ろすそうだ。粗筋を聞くと実に面白い物語。早く実現してほしいと本気で願う。
杉本アートの根底に「現物」という思想がある。古美術でも目利きとして知られる杉本さん。「曾根崎心中」の舞台でも本物の平安中期の仏像を持ち込むほどである。その蒐集の範囲はとてつもない。前の大戦の史実を実感するためにと、アメリカ軍が散布した降伏を勧奨するビラや終戦直後の鉄兜を改良した鍋などを入手もしたそうだ。そういう歴史の「現物」を手にして目にして、アートのコンセプトを練り上げていく。杉本ワールドの秘密の一つであろう。
今夕、杉本さんのドキュメンタリー映画が科学博物館でプレミアム上映される。その招待を受けたので5時過ぎから出かけようと考えている。杉本さんは明日の飛行機でニューヨークに戻る予定。
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