ぽんぽん大将
今夜、目黒の居酒屋に寄った。どうもまっすぐ家に帰らない。モトイ、帰れない。
職場の熱気をもったまま、自宅にもどってお風呂へという流れはなかなかならない。一度、寄り道してクールダウンしてから帰宅となる。
寄り道で飲む酒の量は最初の2合だけ。時間にして40分足らずだ。
今夜もそのペースで飲んでいた。正面に老人3人が酒を飲んでいる。おばあさんを囲んでおじいさんが二人の組み合わせ。そのおばあさんがちょっと素人離れしていて粋な感じがする。皺だらけで指もごつごつしていて、とても飲み屋に出入りするような年齢ではないが、眼光が鋭いというか爛々としていた。そのおばあさんに気づいたのが最初。
そのうちに、その隣に座っているじいさんの面差しはどこかで見たことがあると思い立った。
あ、そうか。桂小金治師匠だ。私らの少年時代のヒーローだ。
50年前になるか。NHKの子供の時間、つまり6時台に連続ドラマがあった。「ホームラン教室」とか「ぽんぽん大将」だ。
後者の主人公が桂小金治さんだった。隅田川を行き来する運搬船の船長だから、ぽんぽん大将。下町の熱血船長だった。
♪川風吹け吹け、で始まるテーマソングは10年ぐらい前までは歌うことができたが、今は忘れた。
居酒屋で小金治師匠を見かけたので、帰りがけに声をかけた。
師匠はえらく喜んでくれた。「声をかけてくれてありがとう」といって、私の手をぐっと握りしめてくれた。柔らかいやさしい手だった。
「ポンポン大将が好きだったので」と告白すると。
師匠は人差し指を口に入れて、ぽーんと弾く。「これだね。これだよ」とポンポンの謂れとなった指笛を示して得意そうな顔。いい笑顔だ。
すっかり嬉しくなった。
あのドラマが流れたのはテレビが始まった頃の話だ。
あの頃、みんな、「坂の上の雲」をめざして、老いも若きも懸命に歩いていたよな。
師匠もそろそろ80の大台に乗り始めているだろう。
いつまでも、お元気でと心でつぶやいて、お別れした。
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