忘れられない
昭和49年のことだ。朝のテレビ小説で、「鳩子の海」というのがあった。
山口県の山陽道である女の子が保護されたことからドラマは始まる。その子が物語の主人公。特殊爆弾が広島に投下されて2,3日後のことだ。その娘は記憶を失くしていた。おそらく広島の犠牲者であったのだろうと推測されるが、記憶がないために何も分からない。その子が成長して、物語が始まっていく。
このテレビ小説は実際に広島を体験したものには漫然と見ることを許さなかった。
NHK広島放送局にひとりの老人が一枚の絵をもって訪ねてきた。このテレビ小説を見ていたら、あの日自分が体験したことが次々に浮かんできて、それを絵に表したのだといって、その絵を見せた。素人の描いたけっしてうまくない絵であったが、原爆の悲惨がそくそくと見る者に迫るような強い力がみなぎっていた・・・。
この1枚の絵から、「市民の手で原爆の絵を残そう」という運動が2年にわたって続くことになる。
そうやって集められた絵が2200枚。そのなかに、加藤義典さんの「助けてあげられなくて ごめんなさい」と添え書きされた絵がある。崩れた校舎の下敷きになって救援を求める傷ついた少年の絵だ。原爆に遭遇して、逃げて行く途中の段原小学校で目撃したことを描いている。こちらを少年がじっと見つめている。片目は傷ついてふさがっていて、開いている左目が凝視している。見つめられた加藤さんはその子を助けたくとも少年を閉じ込めている木材を動かすことができない。広島中を焼き尽くした火の手がすぐ近くにまで迫ってきた。加藤さんは、少年の手をぐっと握り締めた。加藤さんは心のなかでつぶやいた。「助けてあげられなくて ごめんなさい」。
それから30年経っても、加藤さんの心にこの光景が焼きついたままである。そして、助けられなかった自分を責めている。そういう感情を、サバイバーズ・ギルトということを最近知った。
サバイバーズ・ギルト(Survivor's guilt)は、戦争や災害、事故、事件、虐待などに遭いながら奇跡の生還を遂げた人が周りの人々が亡くなったのに自分が助かったことに対して、しばしば感じる罪悪感のこと。
今、戦争の記憶ということで、「原爆の絵」を調べている。その過程でこの絵のことを知り、サバイバーズ・ギルトのことを考えてみた。
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