新しい才能
10月に発行されたばかりの平松洋子『野蛮な読書』を読んで驚いた。
うまいのだ。巻頭の「能登とハンバーガーと風呂上り」にまずまいった。北陸の雪模様の把握からこの人の読書観までが音楽的に美しくつながっている。言葉づかいがいい。奇異をてらった難しい表現はないが、ありきたりなものではない。「本は本を連れてくる」「海を泳ぐようにして読む」そして、次のような文章を紡ぎだす。
≪読むことの不思議、奇妙な感覚につかまった。からだのなかに物語が構築されながら、一方自分の記憶がじいじいと小さな音を立てて蠕動をはじめ、しだいに言葉と呼応し、反応を高めてふくらんでゆく≫ うまいものだ。
本書は文芸誌「すばる」に連載されたエッセーで、古今のさまざまな作家の作品を取り上げているが、その選出の趣味がいい。私好みのものばかり。沢村貞子、山田風太郎、池部良、佐野洋子、室生犀星、三浦哲郎、正岡子規、田宮虎彦などなど。藤沢周平や江戸川乱歩などもちらりと取り上げている。
平松の読書論だが、そんな固いものでなく、高尚な読書感想文といったおもむきだ。だが内容は深い。沢村貞子の人間像のとらまえ方などは一筋縄ではない。
私はまったく知らなかったが、実は相当経歴を積んだエッセイストであったらしい。経歴をのぞくと、1958年生まれで、16回ドゥマゴ賞を受賞している。「平松洋子の台所」「買えない味」「おとなの味」「夜中にジャムを煮る」「焼き餃子と名画座わたしの東京味歩き」と一見グルメ本のような作品が多い。食いしん坊のわりに食い物の本が好きでない私には目のつかない棚に並ぶ本だ。道理でこの名前になじみがなかったのだ。
大げさに言えば、近年でいえば須賀敦子や藤沢周平を発見したときのような味わいを感じている。先日読んだ『再会と別離』の石井睦美といい、今女性のいい書き手が次々に現れている。
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