低線量被ばく
今、フクシマ原発の問題で一番母親たちを苦しめているのは低線量の被ばく被害のことだ。
爆発した2号3号原発のすぐ側で放射線を浴びたとすれば、かなり高い値になるだろう。しかしそれを受ける可能性は従業員という限られた人たちになるだろう。きわめて特殊なケースだ。が、5キロ、10キロ離れた地域であれば、老人から子供まであらゆる年齢の男女が受けた可能性は高い。そのときに浴びた放射線というのは低い線量になる。距離があるから放射線のエネルギーもそれなりに低下していくから。つまり、地域の子供たちは低線量被ばくをしている可能性が高い。そうとして、ではどれほどの被害が出やすいのだろうか。
この被爆線量と被害の相関については、実は広島、長崎での被爆者の体験がもとになっている。つまり、原爆を受けた地点、受けたときの地形、状況などと其の地点で浴びた放射線の量など、生存している被爆者から聞き出すことができたから、その被災の状況を把握できる。それに其の距離で受けたと推定される放射線量を対応させることによって、白血病や癌の発生率というものを割り出すことができたのだ。数万人の規模で放射線を浴びた体験は人類史上ヒロシマとナガサキしかないから、そのデータが放射線の安全規準を作り上げていた。
この原爆データは1980年頃までは、65年頃に決定した暫定値として扱われていた。だが82年頃に元の原爆データそのものに疑義があると見直しが行われることになった。だがそれも暫定でしかない。絶対の値にならない。というのは、同じ原爆を使って再現実験しない限り、被爆者の浴びた放射線量が確定できず、いまだにあの原爆の威力そのものが分からないのだ。いきおい病の可能性の判断もあいまいにならざるをえない。
ここで、意見が2つに分かれる。低い線量の被ばくは人体に大きな影響を与えない、否たとえ低くてもそれなりに深刻な影響を与えるという真反対の意見に分かれるのだ。だから、いまだに現地では避難すべきか止まるべきか迷いが残るのだ。
この暫定基準を見直した昭和59年の「問い直されるヒロシマの放射線」をめぐってのドキュメンタリーが、NHK特集「極秘プロジェクトICHIBAN」である。制作したのは当時の広島局のKディレクター。私は長崎局にあって、その番組を見た時、深い洞察と手強い取材対象との交渉、勇気に驚きを禁じ得なかった。
昨日、そのKさんに会って、当時の様子を聞き、その映像を再度見直している。この番組は20年以上も前に作られたにもかかわらず、2011年の今こそ大きな意味を持ち始めているのだ。
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