青春喧嘩小説
椎名誠が13年ぶりに書き下ろした私小説「そらをみてます ないてます」を読んだ。出たばかりのほやほや。装丁、書体というかフォントがいかにもシーナスタイルの本だったので、すぐ手にとった。今朝、朝食のあと読み始めて11時前に読み終えた。この小説の前編ともいうべき1998年に出された「黄金時代」に比べて、小説技術が進歩したぶん、痛快、すっきり感が減った気がする。シーナ文体はますます洗練されて精緻になっているが、剥き出しの感情表現がちょっと抑えるようになったのかな。
でも、椎名の喧嘩の描き方は、いかにも経験者という筆致がすごく魅力的だ。
舞台は1964年の、オリンピック直前の東京。帯には、「恋と喧嘩の日々。『黄金時代』を超える熱血私小説550枚」とある。たしかに、部厚い。でも、こんなに分量はいらないのでは。というのは、2つの物語が混在しているが、その1つの探検物語は不必要(いらない)。もう一つの後に妻となる女性との恋物語だけでいいと思った。
どう読んでも、「黄金時代」のほうが魅力的で、今回のは敗けている。タイトルだって負けている。「ないてます」は余分だろう。
だが、椎名の記憶力にも恐れ入る。60年代の東京場末の景色がものすごい緻密さで描写されている。ひょっとすると、アーカイブスの写真を使って「再現」しているのかもしれないが、街角の看板などの文言も実にはまっている。
私小説と銘打ってあるから、かなり椎名の体験が反映された小説と考えられるのだが、喧嘩についてはかなり実体験ではないだろうか。殴られたときの体の捌き方などはなかなかどうにいっている。
それにしても、よくガンをつけられる御仁だ。浅草、新宿を歩いているだけでこれほど因縁をつけられるとは、相当の殺気を当時出していたのだろうか。私の知っている椎名氏は、絵本の好きな、いいお父さんさんだったのだが。
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