嵐
とうとう昨日は休むことになった。大きな台風が来るからということで、心配で大磯に戻ることにしたのが午前7時。いったん家の戸締り用心をしたうえで、渋谷の勤め先に出社しようと考えていた。小田原方面行きの電車は空いていた。9時過ぎに大磯到着、ツヴァイク道に入るとびゅうびゅうと風が吹き荒れている。無数の木の葉があちこちに舞い、まるでゴブリンのよう。いやな予感がした。
もみぢ山の家は荒天のなか心細そうに立っていた。2階、3階の戸締りをし、最小電源の措置をして、家周りをチェック。ベランダのガラス扉がゆるくなっているのだけ気になる。シンバリの軸をしっかり落としてロックする。何やかにやと片付けをして居たら11時になっていた。
12時前、最後に玄関の鍵をかけて駅に向かう。駅に着くと、ダイヤが乱れていて、おおぜいの高校生がホームに立っている。次の電車はおよそ35分遅れで到着の予定という。
それを待って乗り込む。幸運にも席に坐ることができた。が、電車は平塚どまりで、乗り換えとなる。20分待って来た電車は時速20キロのノロノロ運転になっていた。強風注意報が出ているためで、東京までこの運転が続くと車内放送が伝える。たしかに注意報は当たって居て、相模川の鉄橋に出ると、強い風が吹き付けてきて電車はぐらぐら揺れた。
茅ヶ崎―藤沢間が運転を中止すると、案内が流れた。どうやら東京まで行けそうもない。出勤することを諦めて、元来た大磯へ戻ることにする。ところが平塚まで来ると、電車が全面ストップとなった。振り替え輸送で平塚から国府津へ行くバスがあった。20分待って乗る。雨脚はだんだんひどくなってきた。花水橋を渡る頃には、横殴りの雨風で満員のバスがゆらゆらする。
大磯山王町で降りて、お山に向かう。
もどってみると、我が家は台風と健気に闘っていた。裏山の峰越えの突風がベランダドアに刺さる。周囲の大木がわらわら揺れる。切り裂く風の音のなかから、間の抜けたカラスの鳴き声がする。
風呂を立てることも湯を沸かすこともできない。なんだか火を扱うことが危ぶまれるほど状況は切迫していた。
午後5時過ぎ、テレビの画面が消えた。停電になったようだ。急いで、近所の家々を見回すと、全山夕暮れの薄闇に沈んでいた。結局、この停電は一晩続き、私は暗闇のなかで、日本酒を冷で呷るだけとなる。
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