悪人
新刊『日本人は何を捨ててきたのか 思想家・鶴見俊輔の肉声』を今朝読んだ。
昨日は、10月16日放送の「杉本文楽」のナレーション入れで追われたから、午後8時過ぎに帰宅すると、疲れがどっと出てすぐ寝た。
6時前に目が覚め、瞑想30分の後、本書を手にし、内容は対談形式という読みやすさもあって3時間でおおよそを読んだ。本書は、1997年の教育テレビで放映された対談番組をベースにして、その後2回ほど追加対談をして、今年の8月に出版されたと、あとがきで対談相手の関川夏央が書いている。
後藤新平の孫であり、大臣までやった鶴見祐輔を父にもち、英才の誉れ高い鶴見和子を姉にもつ、鶴見俊輔。恵まれた閨閥のなかのお坊ちゃまと揶揄されても仕方がない環境にあったのだが、当人はいつも自分は大不良であり、大悪人と称する。勉強だけが出来る一高一番のような秀才はいちばん間違えやすく、自分のような悪人は状況を読むことができる(はず)と自己認識している。14歳のころから女と出来たりして、父親の髪を真っ白にするほど心配させたりした出来事を挙げて、不良だと喧伝している。べ平連を作ったり、「転向論」を編んだり、漫画「寄生獣」を評価したりする、89歳の大老人。
70年代の初めから、ときどき鶴見の書を読んできたが、いつもどこかでハグラカサレテいるような気になっている。いつ読んでも、彼の悪人説には「嘘ばっかり」と半畳をいれたくなる。だが、彼の交友や読書圏が面白くて、そこに登場するあまり有名でない人物たちの固有名詞に出会いたくて、彼の著作は出ると必ず購入してきた。
この本では、おそらく関川の関心もあってか、藤沢周平について、鶴見が言及していることが興味深い。山本周五郎のような大衆小説は評価しても、藤沢のような「華麗な」時代小説は鶴見の好みの外だと思っていたのだが、どうやら私などがもつ好感とは違うところに、鶴見は関心をおいているようだ。
30年も前から、教育テレビの番組を制作してきた者として、鶴見にずっと関心をもってきた。そのあいだ、私の同僚や後輩たちが幾人も挑んで、いい番組を作ってきた。もはや、テレビで記録するようなこともなかろうと思っていた、この2011年の大震災後に、本書が出されたということに驚いた。
私には、もうひとり、京都に隠棲している人物に話を聞きたいと考えているのだが。
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