境涯
この間の日曜日、目白で句会が開かれた。今年に入って、新しいメンバーが増えて投句数も増えている。当季詠だけで70句にものぼる。俳句といえば年寄の慰みで安気なものともみえるが、時には人生の断面をずばっと切り取るような句に出会うこともある。
現実が喉を通らぬついりかな
葱男さんの句だ。ついりは梅雨入りだが、ここでは漢字をきらって平仮名にしてある。
喉を通らないほどの過酷な現実。息苦しいほどの張りつめたものが漂っている。
大震災以降の日本を覆う不況は至るところで人の暮らしを破壊している。不安を与えている。にもかかわらず政治は停滞している。愚かだ。人民大衆の痛みを本気で知ろうともしていない。与野党ともに権力争いに明け暮れている。愚劣だ。田沼意知がくらったようなことが起きないとも限らない。と文句の一言もいいたいがそんな政談などを書きたいわけではない。
俳句とはノー天気な叙情だけでなくディオニソス的抒情を運ぶメディウムでもあるということだ。たった17文字に境涯が反映される。
俳句は葱男さんのような苦悩とは違う境涯も見せてくれる。例えば鈴木真砂女の句だ。
とほのくは愛のみならず夕蛍
恋を人生の主題とした真砂女らしい句だ。逆にこの句は真砂女以外の俳人が詠めば陳腐になるのかもしれない。そうか、愛は遠のくものなのか。
サラリーマンの境涯を描かせば草間時彦以外にいない。サラリーマンはけっして気楽な稼業ではない。その現実をきちんと掬いとる技量に驚く。読むたびに共感するのが草間時彦。
冬薔薇や賞与劣りし一詩人
秋鯖や上司罵るために酔ふ
そうだ。酔って、上司の悪口を言うほどうまい酒はない。
なんてことを、夜中の3時に目が覚めて、この記事を新しいパソコンで作成した。
来られた記念に下のランキングをクリックして行ってくれませんか
人気blogランキング