文蔵にて
局の資料室にこもって調べものをした。開架式だからあらゆる本の背表紙を眺めることができる。ついつい、本件と関係のない本のページを繰ることもしばしばだ。
外交官にして作家のポール・クローデル。彼が日本で外交官として活動している最中に、関東大震災と遭遇する。この事件は彼にさまざまなことを考えさせたに相違ない。関西にまで出かけて、懇意の日本画家を訪ね、あれこれ人生について問答したことが書かれた、彼の外交官日記。ちなみに、妹のカミーユは映画「美しい諍い女」の主人公にして、ロダンの愛人。そうか、ロダンが生きていた時代は明治末期から大正時代だったのか。白樺派にとって、ロダンは同時代人だったか。
マルグリット・ユルスナールの墓についてのエッセー。彼女の秘書と同じ墓地に眠る。その秘書は愛する人でもあった(らしい)。生涯独身であった彼女の伴侶だったといえるかもしれない。その秘書が先に死んだとき、彼女の嘆きは大きかった。が、聡明で沈着なこの人はけっして感情を露にしない。ただ、散歩の折にはその秘書の墓石をいつも静かに撫でていた。と伝記作者は伝えている。と、ここまで書いて、須賀敦子の「ユルスナールの靴」のなかに、この二人のことに触れていることを思い出した。
ガートルード・スタイン。パリに根拠地を得て、画家たちと交流した女性詩人。というよりコレクター。マチスやピカソの才能をいち早く見抜いた。この新進の画家たちをアメリカに紹介したのもガートルードの功績だ。この人も生涯独身であった。
最期が近づいたとき、最新の車を購入して、ピカソに会いに行った。そして、二人は公園のベンチに腰掛けて静かに対話した。ピカソは、「あなたも、長い人生で、人には言えない苦しいこともあっただろうね」とねぎらった。ガートルードは何も言わず、ピカソの顔を穏やかに見ながらにこにこしていた。それから間もなく死去。
最後に車を買ったということで、去年死んだ佐野洋子を思う。彼女も、癌と告知された帰りがけに、外車専門店に行って、ジャガーを買った。私の知っている佐野は、絵本作家というより布施明の好きなジャガーおばさんだ。
馬鈴薯のうす紫の花に降る 雨を思へり 都の雨に
昔、教科書で覚えた短歌。木下利玄か伊藤左千夫あたりと思っていたら、啄木の歌だった。
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