ジャネットおばさん
明日、大事な対談を収録するということで、私は20年前の取材メモをひっくり返して読み込んでいる。「世界はヒロシマを覚えているか」という番組で、大江さんが宇宙学者カール・セーガン博士と対談した記録だ。博士は、核爆発によって引き起こされる「核の冬」について論陣を張っていたので、大江さんといっしょにコーネル大学まで出かけて、その話を聞いたときの記録である。
そのときに、セーガンが語った言葉が忘れられない。
「国家というものは嘘をつく。国家というものは広報活動を通して真実を歪める傾向にあることを知らなければなりません。これに対して科学者は真理を追究するものです。何が真実で、何がそうでないかを見分ける能力を彼はもっているはずです。」
フクシマ原発のことが発生して以来、この事件を解説してきたさまざまな科学者は、このセーガンの言葉にきちんと向き合えるのだろうか。
25年前、私は「黒い雨」の取材でアメリカのネバダからユタ州にかけての砂漠地帯を取材したことがある。50年代、ネバダの砂漠では地上での核実験が盛んに行われた。その風下にあたる住民に異変があると知って、私は車を駆った。
南ユタの小さな町で、ジャネット・ゴードンという気のいいおばさんにあった。彼女はこの街で起こったことを、こう証言した。
ある日、羊の世話をしていたカウボーイが、ひどく気分が悪くなり、頭痛と吐き気を催した。前日、100マイル離れたネバダで核実験が行われていた。霧のようなものが降ってきて、彼は浴びた。金属の味がしたのだが、このことと頭痛が何か関係があるのか疑問に思った。2週間後、彼の髪の毛はごそっと落ちた。
数日後、政府の原子力安全委員会が発表した。「降下物は実験場の外では何ら危険なことは起こさない」
昨夜、今村昌平の「黒い雨」を見た。井伏鱒二の原作は読んでいたが、イマヘイのこの傑作は見逃していたので、しっかり見た。主人公矢須子を演じた田中好子が風呂場で髪が抜けるシーンで息をのんだ。先日、若くして逝った田中のことが重なったこともあるが、凄絶だった。
54年に第5福竜丸がビキニで被爆したときも、アメリカ政府は、危険区域に、船が間違えて侵入したと発表した。久保山さんが亡くなったときも、日本側の医師団は放射線の影響だと診断したが、アメリカ側は輸血によるものだとした。これらの政府の発表は今もって変更されていない。
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