産土(うぶすな)
有名人がふるさとの母校へ戻って授業をする「課外授業」。この元の形の
「シリーズ・授業」というのを、かつて作り出した。
その番組を立ち上げるとき
「功なりて産土を思う」という、キャッチフレーズを
考えたことがある。人間というのは、成功して名を上げれば自然と故郷が恋しく
なるもの。故郷の母校に恩返しをしたいと願うものではないだろうか、と
この企画を考えたのだ。
産土(うぶすな)――その人が生まれた土地。なぜ、そういう表現をするのか
長く謎とされてきた。
私の故郷、敦賀の海に行くと、日本海に向かって敦賀半島が細く伸びている。
牛が寝ているような姿の西方ヶ岳の麓に常宮、色、立石といった村がある。
かつて陸路は険しく、船だけが通行していた。まさに陸の孤島だった。
ここには古い習慣が近年まで残っていた。その一つに産屋(うぶや)制度がある。
身ごもると、女は母屋を出て産屋に入る。10月10日、日が満ちて出産すると
そこを出る。この風習は古代から続くと言われる。
民俗学者によって、この出産制度が解明された。その中に産土もあった。
産土は出産が近づいたとき、清めの形で産屋の周りに美しい砂がまかれる。
これを産土というのだ。転じて、故郷の土をさすようになったらしい。
私は自分の故郷に産土の起源があると知って興奮した。
それまで、敦賀に対して思いは深くなかったが、以来、愛おしさを感じる
こととなった。
俳人の向井去来の故郷は長崎だ。京都の嵯峨野に住んで芭蕉たちと交わったが
心はいつも産土の長崎を思っていた。長崎の産土神は諏訪神社だ。
たふとさを 京でかたるも 諏訪の月 去来
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