不思議な温度差
これほど安堵するとは思わなかった。
東京にいれば2日に一度ぐらいで強い余震を感じて、テレビの緊急速報にびりびり反応していた。胃に鉛をくわえ込んだような不快が続いていた。だが、わずか500キロ離れた京都に移動しただけで夜はぐっすり眠ることができるし、人々の話題にも地震は上らない。
晩春の都大路はゆったりしたものだ。八重桜の最後の花が華やかに開き、白川や高瀬川の水はさらさら流れている。いつもなら春の観光客で賑わう河原町も人は少なく、外国人も普段の3割程度で、なんだか適正な人の群れになった気がする。夜とて、ネオンや電飾は関東ほど節電しておらずそれなりの賑やかさがある。
同じ国内でもこれほどの差があるのに、むしろアメリカやヨーロッパのほうが東日本の痛みや苦悩に敏感に反応しているように思えてならない。
少しずつ心に余裕が出来て、昨日はとうとう美術展に足を運んだ。平安神宮そばの国立近代美術館で開かれていたクレー展「終わらないアトリエ」を1時間見てきた。
スイス生まれの画家パウル・クレー(Paul Klee, 1879-1940)。早くから日本でもおおぜいのファンを獲得していてこれまでも大きな展覧会がないことはなかったが、生憎私は見ていない。久しぶりの大きな展覧会だということで東京でも開かれたことは知っていたが行く機会がなかった。ちょうど京都で開催されていたので、昼からの授業までの1時間を振り向けてせわしく見て歩いた。
生涯一万点近い作品を作り続けたクレーのうち、170点が出品されているのだが、それでも十分堪能できるほど中身の濃い展覧会だった。この展覧会の特色は作品がどのようにして作られたかという技法を詳しく解説している。油絵転写などという技法は今回初めて知った。
有名な天使シリーズを探したが、残念ながらなかった。ヴァルター・ベンヤミンが愛したという「新しい天使(エンゲルス・ノーブス)」。故久保覚が引用した作品で、本物を見たかったのだが、今回のコレクションには一枚も天使はなかった。
本当なら3時間ほどかけてじっくり見るべきではあったが、昼からの授業の時間が迫り、おまけに冷たい雨まで降り始めたので慌てて銀閣寺行きのバスに乗って、銀閣寺道まで帰った。そこから今出川通りを歩いて百万遍まで雨のなかを小走りで抜けた。
途中、私の好きな古書店が店を開けていたので思わず立ち寄る。山田稔、武田百合子の珍しい書を見つけたが、いささか手元不如意で買い控えた。
昼からの授業では、クレー展の感動が覚めやらず10分ほどこの展覧会について学生たちにとくとくと語り、ぜひ見たほうがいいと宣伝をした。本日は企画論の授業だが、9本の企画案のなかから2本を選出し、2本を再度リサーチして提案するよう指示して終わった。今年の学生たちも目がきらきらしていていい。
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