アウフヘーベン
中学2年生の頃だったと思う。ボランティアに出かけていた母が、夕方遅く帰ってきた。どこまで行ったのと聞くと、近江八幡までと応える。日帰りにしてはずいぶん遠いところまで出かけたものだと、空腹を我慢しながら呟くと、母はまったく意に介さず、「あんた、シヨウってどういう意味なんや?」と問い返した。
「シヨウ?」使用、仕様、私用、試用のどれを指すのか一瞬と惑った。
「私なあ、今日、教会婦人会の有志で滋賀県の施設に出かけたんや」母は上着をハンガーに掛けながら言った。「そこにいた子供さん、というより大人になった子供みたいなヒトがたくさんいたのや。障碍の度合いはかなりきついと感じたヒトばかり」
そこで、母たちは洗濯をしたり掃除を手伝ったりしてきたようだ。往復5時間ほどかけてご苦労なことだと、夕飯が出て来ず不貞腐れていた私は、母の問いかけにも禄な返事もしない。
そこの施設の園長は、母たちにこの学園の名前の由来を語った。止揚学園という名称だ。
障碍という否定的なものを抱えているからこそ、一段高いレベルに上がることができる。止揚。その意味と願いをこめて本学園の名前にした、そう園長は熱く語ったそうだ。
母は、意味は分からないものの、そのリーダーの熱血ぶりに感動し、その余韻をそのまま家まで持ち帰ったきたわけだ。
今になってみると、弁証法で使われる止揚という概念を説明したと分かる。当時はチンぷんカンだったが、なぜか気になる言葉として、止揚を覚えた。
今回の東北の災害も、受難として受け止めて、ここをアウフヘーベン(止揚)したい。
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