帝国の残影
知人の母堂が急死された。帰宅したら風呂場で亡くなっていたというではないか。悼ましい。私も一昨年に母を失い、その時は気がつかなかったが、心の深い部分で傷をうけたということがあったから、その知人にも「くれぐれもお大事に」と言ってあげたい。それにしても、冬場は老人、病人にとっては鬼門というか泣き所というか、有り難くない季節だ。今年は、とりわけ寒さが厳しいから、冬を越すのは容易でないだろう。
装丁がスマートだったので手にとった本、『帝国の残影〜兵士小津安二郎の昭和史』。明け方から読み始めて、2章の102ページまで来た。明晰な論理で分かりやすく面白い。
前から、上海事変に従軍した小津の動向が気になっていた。実際の戦闘に遭遇した経験をもちながら、戦後の彼の作品には生々しい戦争体験が出てこないことに違和を感じていた。成瀬巳喜男などは、「浮雲」などでその傷をしっかり見つめているのに対して、小津は「東京物語」でも戦死した息子の嫁の話というぐらいにしか、戦争の影はささない。むろん、シャイで生の感情を表すことを「はしたない」と考えているだろう小津だから、そうやすやすと実行しないだろうが、それにしても、戦争に対する言及が少ないことには、なにか収まりの悪さを感じていた。その疑問に答えてくれそうなのが本書だ。
著者の與那覇潤という人は1979年生まれとある。私の子供の世代だ。だが、よく小津を研究している。かつ、アジア/太平洋戦争の史実にも精通している。これまで語られてきた小津とは違う人物像をよく切り出していると感心した。まだ、3分の一だから全体の評価は後に譲ることにする。
小津の対比する人物として内田吐夢が登場する。彼はスランプになり、活路を求めて、終戦間近い昭和20年5月に満州へ行く。その間の事情が本書で語られているのだが、そこで同じ監督仲間の田坂具隆の言葉が気になっている。
「戦場へ行ってみないときは割に平気で[戦争映画を]作れたが、一度行って百日も見て来ると、難しくて撮るのは怖い」
今、従軍画家の運命をドキュメントしようと考えている私には、びんびん響いてくる言葉なのだ。残り3分の2を本日中に読み上げようと考えている。この本もNTT出版だ。最近、気になる書はほとんどこの社から出ている。
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