海外特派員
此の年末年始の休みはヒッチコックの映画三昧で行こうと考えていたのだが、今のところ目論みは失敗になっている。まさか、31日まで仕事が続くとは思っていなかったのだ。自分の立てた企画ならともかく、お仕着せの作品では意気も阻喪する。こんなことなら、映画三昧のほうがよかったのだが、後悔しても始まらない。
でも、その多忙な時間を縫って、気分転換にちょこちょことヒッチコックを見ている。今朝も未明に「海外特派員」を見た。1940年のスパイ映画だ。ものの本によると、反ナチのプロパガンダとして作られたというが、スパイスリラーとしてよく出来ていた。
欧州大戦が始まろうとする不穏な情勢のなか、アメリカから派遣された記者ジョン・ジョーンズ。ヨーロッパでの平和運動の大立者フィッシャーの本意を取材して時局の行方を探ろうとする。ところが、そのフィッシャーは敵のドイツ側によって拉致される。その行方を追うなかで、さまざまな陰謀策動に巻き込まれるという筋だ。筋(ストーリー)もさりながら、描き方がうまい。シーンからシーンへの転換とか繋ぎとかが実に鮮やかだ。小道具というかモノの扱いも巧みだ。あらためて、映像の勉強になる。やはり、ヒッチを系統的に学ぶことは大切と、トリフォーたちの慧眼に驚く。彼やシャブロル、ロメールらフランスヌーベルヴァーグの才人たちは、いち早くヒッチの重要性を見抜いていたのだから。
今年、私が発見した映画監督はエリック・ロメールだったが、彼の映画のエスプリはこのヒッチから発しているといっても過言でないかもしれない。一見、両者はまったく違う作風のように思われるが、なかなかどうして、通底するものは小さくない。ロメールはヒッチを研究するため、ベルギーにあるシネマテークでヒッチの無声映画まで含めて49本を見たという。羨ましい環境が、1960年のフランスにはあったのだ。だが、現在の私らもDVDという文明の利器のおかげで、それに近い恩恵に浴することができるのだ。実は、このロメールを真似て、年末年始のヒッチ三昧を思いついたのだ。
「海外特派員」で、一番感心したのはラストの飛行機が不時着して、主人公たちが海に投げ出されたシーンだ。嵐で波立つ海面で飛行機の残骸にすがって、救助を待つ場面、本物の海を使っている(ように見えた)のは大変な努力であり、すぐれた演出だ。後に評判をとる「北北西に針路をとれ」などでも、痛快なアクションシーンでの背景が合成を使っていて興ざめしたのだが、本映画はきちんと実写化している。しかも、そこでの迫真の演技が自然なのだ。
それぞれの場面、シークエンスの終わりに、ヒッチはくすっと笑いたくなるような諧謔が仕込まれている。まさにスリラーとユーモアをモットーとする作家だ。
キャラクターの仕立て方がうまい。主人公の記者もいいが、そのライバルの記者の造形も見事だ。1940年の本作を皮切りにもう少しヒッチを見続けていこう。
次は、ケーリー・グラントの「泥棒成金」を見る予定。今夜でも見ることが出来れば嬉しいが。
来られた記念に下のランキングをクリックして行ってくれませんか
人気blogランキング