天国の門が開いた
昨夜は冷え込んだ。掛け布団に電気毛布を加えて、私はくるまったが、深夜あまりの冷え込みに目が覚めた。その分、星座が美しかったのはよかったのだが――。
明けて、今朝は空が晴れ上がった。真っ青な空がどこまでも広がる。背戸の山を久しぶりに撮影した。この家は、建築家がエーゲ海のサントリーニ島をイメージしたと吹聴したごとく、紺碧の「青」が似合う、海であれ空であれ。その屋上に上がって、深呼吸すると青い冷気が肺のどこまでも染み込んでいく気がした。
時刻が来て、会社に向かうため紅葉山を降る。ツヴァイク道を久しぶりに味わいつつ下った。大きな広葉樹は葉をすっかり落としているから、森は明るい。下草にまで日が差している。常緑の木々も粒だった光をまとっている。
どこかで見た光だと考えた。イタリア、ヴェネト地方の農村で見た風景だ。あの朝も冷え込んでいた。
泊まったホテルの玄関のカフェーで、私はカフェオレとクロワッサンを頬張っていた。そこへ、葉兄弟が嬉々として飛び込んできた。
「凄い、凄い。天国の門が開いていますよ」と興奮気味の葉祥明さん、絵本作家。彼とともにイタリア、アッシジのフランチェスコの旅を始めたばかりのときだった。絵本コンクールで有名なヴェネト地方の村から出発したのだが、その旅のはじめに、素晴らしい朝の風景に我々は出くわす。葉さんは弟のハヤマさんと連れ立っていた。二人は朝食の前に、近在を散歩していたらしい。北部イタリアで、遥か彼方にはアルプスの枝峰も見はるかすのどかな田園だ。光はすぐ変わるから、朝食など後回しにしてすぐ見に行こうと、葉さんは誘った。
内心、私は苦笑していた。(大げさだなあ、天国の門が開いただなんて。やはり、絵本作家はロマンチストなんだ・・・ぶつぶつ)
旅籠(ホテルというより、小さく鄙びていたのでそう呼びたい)を出て、裏道を抜け、木橋を渡ると、刈り入れのすんだ畑が広がっていた。中央には遠くアルプスからやって来る水を満々とたたえた小川が流れている。光が降り注いでいた。すべてのもののカタチが、光をまとって、この世とは思えないほど明るい。そして截然としている。風が冷たく、鼻の奥をつーんと刺す。小鳥の囀りが、川の音を縫うようにして聞こえてくる。大きな農地を斜めに横切りながら、草や川や、遠くの山々を珍しそうに私は見た。飽くことがなかった。
・・・今から10年ほど前に見た光景が、今朝の私に甦ってきたのだ。紅葉山の中ほどで見下ろした相模湾はきらきらと輝いていた。三浦半島も先のほうまで見えた。
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