軍事境界線
穏やかな秋の日と喜んでいたら、夕方になってとんでもないニュースが飛び込んできた。
朝鮮半島の軍事境界付近で南北の軍隊が交戦中というものだ。寝耳に水である。いったい何時のことかと疑った。まるで、昭和初年の東アジア情勢のような出来事だ。
北朝鮮と韓国を分ける境界線は北緯38度線だが、海上では必ずしもその線とは重ならない。休戦協定のときに、アメリカ指導のもとで現在の限界線が決まったのだが、北側は必ずしもそれを認めているわけではないということらしい。その危うい線上で、昨日韓国とアメリカは共同の軍事演習を行っていて、それを北朝鮮は挑発と見て、韓国側の島に砲撃した。
国境の島ヨンピョンには2000人足らずの住民や兵士が住んでいる。監視カメラに砲撃の様子が映っている。砲弾は民家のある区域で炸裂していた。人家の真ん中に赤黄色い炎がばっと上がる。身震いするほど危険な砲撃だ。
4時半過ぎ、韓流ドラマを家人が見ていたのだが、緊急ニュースに画面が切り替わったので、私に注意を促した。テレビ画面には生々しい砲撃の様子が映っている。急いでNHKに切り替えたが大相撲の中継をのんびりやっている。一瞬、民放の大げさなニュースかなと疑念がわいたが、4も10も8もみな臨時ニュースで第一報を伝えている。
韓国では国家安全保障会議の下のレベルの会議が、大統領府で開かれているというニュースが入る。日本の総理大臣官邸は情報収集につとめているという。菅総理の発言も官僚答弁のようで当事者意識が薄い。
今回、あらためて軍事境界線が注目された。朝鮮戦争の休戦のときに国連指導で設定されたラインで、地上においては北緯38度線がその目安となっている。海上においては微妙な差異があることを今回初めて知った。
ベトナム戦争のときは17度線という境界線があった。ベンハイ川をはさんで、当時北ベトナムと南ベトナムが対峙していたのだ。現在、私は12月3日に放送されるベトナム戦争関連番組を制作している。その番組中に、ベンハイ川が出てくる。かつて、この川を挟んで激烈な闘いがあった場所が、今では観光の名所となり、北と南もなくなったという現実を紹介する場面。一見、平和にみえるそのなかに、戦争の傷が隠れていた。ぜひ、番組を見てほしい。12月3日、夜11時から衛星第1、BS世界のドキュメンタリー「戦場のジャーナリスト~俺たちが見たベトナム」。ベトナム戦争が始まってから半世紀、終結から35年も経っているにもかかわらず、その傷は癒えていない。
夕方から、新大久保駅前の寺院で行われる通夜に出向いた。父方の遠い親戚の通夜で、私が実家の代表で出席することにしていたのだ。
大久保は有名なコリアンタウンだ。町にはおおぜいの観光客でにぎわっていて、今日起きた砲声騒ぎなど誰も知らないといった風情。と、思ったら、店先でライトが煌々と付いている。ENGカメラが回っている。民放の取材クルーだ。半島情勢について、町のコリアンたちの意見を聞いて回っていた。傍らで耳をそばだてると、韓国人従業員とおぼしき人たちは口々に不安を申し立てていた。「戦争にならなければいいが」「もし戦火が起きたら、私も帰国して兵隊にならなくてはならない」「韓国にいる家族が心配です」
一夜明けて、24日の朝のワイドショーでは軒並み昨日の砲撃事件をとりあつかっていた。朝鮮半島に精通する研究者や評論家が今回の事件の背景を分析してみせた。「朝鮮戦争」は休火山であって死火山ではないということをあらためて思う。それにしても、事件の現場から韓国の空の玄関仁川までなんと近いか。首都ソウルまで100キロしかない。
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