地と図が入れ替わって
永井龍男の名作「青梅雨」の
冒頭のシーンのような糠雨が今夜は降っていた。ツヴァイク道のを夜を歩きぬけた。
日が暮れるのが4時半ごろの12月間近では、7時ともなるととっぷり暮れている。
人っ子一人いない森は気味が悪いのはいうまでも無い。
山道に入るとすぐ、古代の古墳が大きな口を開けている。これが苦手だ。出来るだけ、そちらのほうを見ないようにして走りぬける。山の端にはまだ日の残りのようなものがたゆたっている。うすぼんやりと空は明るいのだ。
山道は糠雨で少しぬかりはじめている。虫の音もない。たしかに秋は去り、森は冬に入ったのだと実感する。
ツヴァイク道の途中で、大きく曲がりになる箇所に来ると、私は休息をとることにしている。そこまで来て立ち止まって、空を仰いだ。
一瞬、街灯に照らされて、満開の桜のような光景が浮かび上がった。目を疑った。
こんな晩秋に桜の満開もないだろうと、目を凝らして眺めた。
やはり、私の目の錯覚だった。昏れ残った空はまだ鈍く輝く白さがあった。そこに常緑樹の葉のシルエットがインサートされる。目がまだ慣れないうちに見ると、葉っぱが暗闇に見えて、侵食された空の白さが葉っぱが茂っているように映ったのだ、私の目に。
つまり、本来の形を表す葉の「図」が背景の「地」に変わり、地である白い空が葉っぱ文様の図に見えたというわけだ。
晩秋の森で、この地と図の反転の美しさにとらわれて、小雨がかかるのも忘れて立ち尽くした。
もみじ山の上まで上がって来て、振り返ると、谷には白い霧というか雲というか、あわあわしたものが湧いていた。
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