演劇の新しい風
友人がつかこうへいの「熱海殺人事件」以来の衝撃を受けたから、この芝居見ろよと「映像」を渡された。劇団ポツドールという聞いたことのない劇団だ。下北沢の本多劇場にかかっている芝居だと聞いて、ふーんいまどきのお笑いのような芝居だろうぐらいになめて、「顔よ」という作品を見始めた。
ぶっとんだ。芝居の間延び感はほとんどなく、まるでテレビドラマのようなテンポで展開する。複数のセリフがかぶるもしくは交互になるが、そのタイミングは実にこまかく演技される。相当の訓練を積まないと出来ない技を、すべての団員がもっている。そんなテクネーのようなことは二の次だ。芝居の物語がすさまじい。ニンゲンのうちにもつヤナ部分がこれでもかと露出される。どろどろ。こりゃ、どんな人間がやっているのだと、ネットでしらべた。
1996年に早稲田大学演劇倶楽部10期生の三浦大輔が中心になって結成された演劇ユニットとある。第1回公演『ブサイク~劣等感を抱きしめて~』は、タイトルからすると、今回見た「顔よ」と類似の主題のようだ。いわゆる演劇的な過剰なドラマを得意とすると解説がある。2000年7月に公演した『騎士クラブ』はとんでもない芝居だったらしい。ヌキキャバという性風俗の場で起こる客と店員のドタバタの前段があったあと、後段ではその芝居をめぐって役者自身が役作り設定などをめぐって議論するという、メタ芝居的なドキュメンタリータッチの作品に挑んだとある。この作品は〈セミドキュメント〉と称され、メディアに取り上げられるようになり、このあたりからメジャーになっていったようだ。
13回公演『愛の渦』では、「裏風俗」を舞台に人間の性欲に真っ向から向かい合い、この作品で第50回岸田國士戯曲賞を受賞する。2008年に「顔よ」を本多劇場にかけることになる。
現代の若者が、顔の美醜をめぐってこだわるワダカマリのような汚泥がどろどろ出てくるような芝居。それが「顔よ」だ。おそらく第1回公演の『ブサイク~劣等感を抱きしめて~』も同じモチーフで創られたのじゃないか。
ストリップを見ているような過激な性描写もさりながら、テメエの顔の美醜について語る役者の根性と演技に圧倒される。
この芝居の中心にあるのは作・演出の三浦大輔。75年生まれだから35歳か。高校生の頃野島伸司のテレビドラマばかり見ていたそうだ。北海道から早稲田に来た、ほとんど挫折も屈折もなく過ごしてきたとほざく。とにかく芝居のもつ臨場感がたっぷりあるが、けっして新劇風の嘘くさい段取り演出が皆無のこの芝居。生で見たい。
次回の上演は日本ではないと予告されている。いまや国際的な評価も高い。海外では「本番」も辞さないと噂で聞いた。こういう新しい風が吹いてくると、日本のビジュアル文化も少し変わってくるのじゃないだろうか。テレビのドキュメントも少し変わってきてほしいものだ。
ちなみに、ポツドールの芝居はシアターチャンネルにときどきかかるそうだ。
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