母の呼ぶ声
ポケットウィスキーをぐい飲みしたせいか、昨夜は10時過ぎに寝た。
夕方からぽつぽつ来ていた雨は夜半になって本ぶりとなっていた。屋根をたたく雨音をここちよく聞きながら眠った。
明け方、トイレで目が覚めた。雨が激しくなっていた。屋根の雨音ばかりか、庭のタタキを打つ雨の音がすさまじい。暗闇のなかでひとり聞いていると、父母がなにか怒っているような気がして心細くなった。山中のお墓に運んだことは嬉しくなかったのだろうか。晩年の母の歌には故郷大津を恋うる歌が多かったが。
いや、そんなはずはない。独りで待っていた父の傍に安置したのだから、二人とも喜んでいるはずだ。不吉不安なことが頭のなかをぐるぐる廻る。
――とうとう嵐となった。無花果の木が大きく揺れて、風音が鳴る。雨漏りはしないだろうか、屋根の瓦は飛ばないだろうか。
こんな嵐の夜も、母はひとりで耐えてきたのだ。
眠れないまま起きだして、母の残した雑記帳をぱらぱら読む。こんな歌があった。
風邪ひくよと呼ぶはやさしき母の声いつか聞こえた秋の夕暮れ
祖母が母に呼びかけた声を思い出して作ったと思われる。
雨が降って冷え込んだ。ふたたび布団にもぐりこむ。仰向けに寝て天井の節穴を数えているうち眠った。
朝になると、雨はあがっていた。静かだ。物音、鳥の声もない。晩秋の朝だ。
天気予報によれば、今夜から前線が移動して北日本は大荒れになるとある。早めに東京へ帰ることにする。
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