真剣師
最近、書店に行くと実用書のコーナーをのぞくことにしている。以前はまったく脚を向けたことがなかったが、編集者の卵である娘からこのコーナーの面白さを聞かされてから少し興味がわいた。そこで、最近よく目にするのが麻雀師の桜井章一本だ。単なる麻雀指導でなく、人間観察が売りだというのだが、元々賭け事にあまり関心がないので、なかなか手にすることはない。
なんて話を後輩にしたら、「真剣師 小池重明」は将棋のことが分からなくてもめっぽう面白いですよと教えられた。
翌日、文庫本のそれを持って来てくれた。著者、団鬼六。なんと、「幻冬舎アウトロー文庫」に収録されている。アウトローと名乗る文庫とはと,のけぞる。
団という作家はSMの際どい作家ということは知っているものの、これまで一度も読んだことがない。文芸誌のグラビアなどで見る団の風貌は着流しのいかにも流行作家のそれだ。
どうせ、扇情的な文章で劣情をそそるものさと決め込んで、ページを繰ってみたら、読書が止まらない。面白くて、つい昨夜遅くまで読んだ。うまい文章と巧みな構成は、さすが娯楽小説の人気作家だ。
真剣師とは将棋のギャンブラーのことだ。名古屋生まれの伝説の真剣師小池重明の生涯を描いた作品。小池は44歳の若さで死んで伝説化しているが、よくよく読むと昭和22年12月誕生とあるから、私と同学年ではないか。だが、この人物と私が同じ時代を生きてきたとは思えないほどかけ離れた人生だ。正確ではないが、賭け将棋というのは非合法だと思う。すべからく物語は裏の世界を描いている。主人公の小池はその生き様が破滅的。人妻との駆け落ち3回、寸借詐欺を犯し、逃亡と放浪を繰り返す。それでいて、無類の将棋の強さ。その強さは生きていて伝説化していく。
この小説のネタ本に、当人が書いた「流浪記」があるとされているが、果たして実在するか分からない。筋も実際にあった出来事を追っているとしているが、どこまで事実かもはっきりしない。見方によれば、あまりに話しが出来すぎているから、団の虚構かとも思える。だが、娯楽作品としてはその詮索も意味ないだろう。面白いお話として受け取ればいいのだから。
もし、この本に書かれたことが事実として、もし、主人公が亡くなった平成4年にこの話を知っていたら、私はこれをテレビドキュメンタリーにしただろうか。
いや、出来ただろうか。あまりに”危ない”話が多いのだ。でも、それがこの書の無類の魅力になっているのだか。これって、ピカレスク(悪漢小説)なんだろうか。
しかし、世の中にはまだまだ知らないことや、すごい人物が潜んでいるものだ。文京の白山の裏通りで、「ギリシャ語教えます」という木札を見かけたことがあるが、それと同じような打撃を、この本から受けた。
来られた記念に下のランキングをクリックして行ってくれませんか
人気blogランキング