沖に白波が立つ日となりて
今年初めて海に入った。夕刻だ。土用の日を越えて、さすがに波は荒くなっていた。
沖に白波が立っている。4時を過ぎて、浜辺には人影がめっきり減っていた。
今日しか、泳ぐ機会はないと勇んでこゆるぎの浜にきた。年初にばっさり開腹手術をしたから、まさか今年中に泳ぐことが可能とは、春先には思いもしなかった。が、夏になって、食欲も増し、体調もよくなってきたので、泳ぎたいという気持ちはあった。
だが、家人に言えばきっと止められるに決まっている。還暦を過ぎて、おまけに手術までやって、いつまで若いつもりかと小言を食らうに決まっている。だから、ずっと水泳計画は腹のなかに収めておいた。
先週の休日は、美大の学生たちが来ていたので機会を失った。おそらく、今週を逃せば、今年は泳ぐことはあるまいと思われたので、決行することにした。
海水パンツを探したが、いつもの戸棚の引き出しから消えていた。家人が処分したのだろう。
駅前のコンビニで購入することにした。これまでブリーフ式だったが、今はやりのショーツにした。ハワイ柄の派手なやつだが、まあ今年はこれきりだからいいだろう。2900円のコバルトブルーのショーツに駅のトイレで穿き替えて、海まで行った。
用心深く、遊泳監視の塔の前に荷物を置き、その前で海に入る。水はぬるい。肩までつかると沐浴の気分となり、あらためて泳ぐことが出来たことをなにものかに感謝する。
大磯は名前どおり波の荒い浜だから、あまり沖には出ず、浜と平行して平泳ぎで20メートルほど行く。試しにクロールに変えると、すぐに息が切れた。
波に揺られながら、還暦のわが身を振り返る。まもなく、本当の定年が来る。この数年は、仕事にあってもあまり感情的にならないように勤めてきた。人間が穏やかになったと周りからも言われるようになり、昔のような攻撃性は引っ込めた。企画の提案にしても、現役時代のような唯我独尊でなく、後輩であれ担当する者の意見を出来るだけ取り入れるように勤めてきた。
だが、我慢することはないのじゃないかと、ふと思った。嫌なものは嫌だ。番組のことも分からない輩や基本的な知識も持ち合わせていないものに媚びてまですることはない。作り手にしても、安易な選抜はやめよう。教養や素養をもたないものに合わせてレベルを落とすのは止めよう。今、取り組んでいるベトナムのディレクターなどは本気で喧嘩が出来る実力をもっている。もう、人材の育成などのようなことに、いつまでも関わっているほど、私には時間が残っているわけではない。あと何年出来るかもしれない海水浴より、もっと番組を作る時間は短いのだ。
2度海に入り、3度甲羅干しをして、今年の海水浴を終える。ちょうど5時。夕焼チャイムが鳴っていた。
最後に大波に体を預けて、潜水行をする。砕ける寸前の大波に乗った。からだが岸に引っ張られるようにして、体を水中に潜らす。8秒ほど潜り、終わりのほうで目を開けると無数の水泡が水面で割れているのが見えた。そこに向かって父母の名前を呼んだら、なにか手ごたえを感じた。気のせいだろうか・・・。
初盆の母のことを少し気にしたのだ。
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