夏のかほり
昨夜の「夏の紅白 思い出のメロディ」はよかったな。まず、司会が三宅裕司とあの松下奈緒という組み合わせがいい。三宅は昭和25年生まれで団塊のしっぽだし、松下は「ゲゲゲの女房」のヒロインと、実に時代を読んだ旬のキャスティングだった。松下へのオマージュもあったのだろう、熊倉一雄が出て「ゲゲゲの鬼太郎」を熱唱するなんざぁ、公共放送にしてはサービスも行き届いていた。一人一曲なんて不文律なんかに捉われず、いい曲を持っている人には2度3度歌わせたというのもいい。森進一の「港町ブルース」と「襟裳岬」。八代亜紀の「なみだ恋」と「舟唄」。アダモの「サン・トワ・マミー」と「雪が降る」。そして小椋佳の3曲だ。
中村雅俊とデュオで「夢の坂道」、布施明単体で「シクラメンのかほり」、最後に小椋のソロで「愛燦燦」。この構成は実に適切で、小気味のいいものであった。
「シクラメンのかほり」という曲が登場した頃、かほり論争というのがあったことを思い出す。歴史的仮名遣では「かをり」が正しいとされるため、タイトルの「かほり」は誤りだという国文学者が出たりして、小うるさい輩もいるものだと、その学者を私ナンゾは軽侮いたしやした。
7年ほど前になるだろうか、ちょうど小椋佳さんが胃癌の手術を受けて激痩せした時期、その小椋佳さんと一緒に福島県の裏磐梯地方に出かけたことがある。
「ETVスペシャル」の枠で放送したもので、「美しく生きたい~小椋佳 還暦からの出発」と題した伝記ドキュメンタリーだった。デビュー40年を期して、それまでの個人史を振り返るという趣旨のETV特集を制作するために、福島県まで遠出したのだ。その地には、小椋さんの青春の思い出がつまっているということで、インタビュアーの渡邉アナウンサーも同行するという普段のロケとは一風変わった旅となった。
大学3年の頃の小椋佳。弁護士になろうと国家試験を受けることを決めたものの、かなりの受験勉強が必要となった。ちょうどその頃、付き合っていた女性が役者になるため文学座に入ることになり、小椋に別れを告げた。その悲傷を振り切ることを兼ねて、勉強のため彼は福島の檜原湖畔早稲沢の学生村にひと夏こもることにした。朝のうちは勉強、昼から村の仕事を手伝うという日課を繰り返しながら、小椋佳ことカンダコージ青年は鬱々と楽しまない日が続いた。その女性のことを諦めることができなかったのだ。
そうしたある日、夏の終りのこと。白い帽子をかぶった、スーツケースを持った女性がその村に現れた。別れたはずのあの女性だった。その人は後に妻となる「佳穂里(かほり)」さんだ。この話を、現地で聞いたときはまるでドラマを見るようで感激した。聞き手の渡邉さんが実にうまかった。小椋さんも気持ちよさそうに、病み上がりと思えない明るさで語ってくれた。
(つづく)
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