上方落語を聴きながら
昨夜、半蔵門にある国立演芸場で、桂文我師匠の噺を聞きに行った。極彩色高座賑(こうざのにぎわい)という会の第2夜で、ゲストは加賀美幸子さん。実は、加賀美さんからのお誘いで聞きに行ったのだが、これが滅法よかった。
文我はあの名人枝雀の弟子。桂米朝の孫弟子になる。今年50歳。いちばん油ののった時期を迎えている。演目は「ぼうふり虫」と「算段の平兵衛」の2つ。「ぼうふり虫」は先年米朝のために書かれた新作落語だが、長い間埋もれていたのを、今回文我が発掘して演じたもの。なかなか勉強熱心と見受けた。「算段の平兵衛」は上方の十八番のひとつで、踊りや動きをいれた派手な演目。比べて、「ぼうふり」は藪蚊を表すという、落ちぶれた遊び人の切ない話。私は、「ぼうふり」に引かれた。みじめな境涯に落ちた友を憐れみながら、いつしかおのが身の上にも子寒いものが吹いてくるような味わい。
さて、中ほどで、加賀美さんが朗読を45分聴かせる。これが凄い。出だしの一声で会場の空気ががらりと変わるのが分かった。テキストは辰濃和男のエッセー「ぼんやりの時間」。
「ぼんやり」という貴い時間を説いた滋味溢れる文章を、加賀美さんが深々と朗読する。「いそがなくてもいいんだよ」と人生の機微を繊細に描いた文章が、語りによって、聞き手の前に表象(representation)されるのだ。言葉が「画」となって表れてくるのだ。まさに芸だと感じた。
このテキストに「源氏物語」と「良寛」が加えられて、加賀美さんのパフォーマンスは構成されていた。難をいえば、「良寛」が余分だった。あまりの御馳走尽くめで、最後のデザートまで味わえない。やや少なめのほうが、余韻は深くなるのではないかと思った。
そして、文我と加賀美幸子の芸談あれこれは、2人のトーク。これがよかった。私は文我さんのことを知らなかったが、穏やかなユーモアがそこはかとなくあり、加賀美さんのトークとよく絡んだ。朗読のときと違って、トークでは加賀美さんの素の「せっかち」な部分が垣間見えて、その落差を堪能した。
久しぶりに、大人の時間を得て、大満足。
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