チョルラの詩
ソ・ドヨン君は、私がキャンペーンを手がけた「春のワルツ」の主役だったからよく覚えている。ユンズカラーの初めての専属俳優だったはずだ。東京で開いたパーティでも、ドヨン君は謙虚に振舞い、華やかな芸能界の人とは思えない穏やかな人柄に触れて好感をもった。
その彼が、今回、映画に初出演・初主演したそうだ。先日、その映像の案内を見知らぬ人物からいただいた。怪訝に思って包みの封を切ると、DVDと手紙があって、その映画のプロデューサーからだった。私が「春のワルツ」に力を注いだということを、ドヨン君のファンクラブの方から聞いて送ってくれたそうだ。
その映画を今朝見た。いい映画だった。韓流が始まったとき、やはり私も日韓合作をやろうかと動いたことがある。ユン監督と相談しながらシナリオのシノプシスを起こしたことがあった。韓国の男性と日本の女性の恋物語で、舞台はイタリアのクレモナと札幌の雪祭りだった。このシナリオ開発の話はかなりいい線までいったが、まだ韓流の実力というものを日本の出資者たちに分かってもらえず、資金的な面で頓挫した。
その折、いくつもの物語を考えたが、そのなかに在日韓国・朝鮮人と韓国人の関係を描くというのもあったから、今回の映画「チョルラの詩」はとても興味深かった。
ソ・ドヨン演ずる在日韓国人の平山幸久は、日本の学校で非常勤講師として詩を教えている
祖父が死んだので、母の代行で韓国の故郷を訪れることになった。釜山から全羅道へ向かうと、山と海に囲まれた美しい風景が現れる。目的地は、干満の差が激しく、時には離島となり時には半島にもなる小さな島。この島の風景が抜群に美しい。時代は1987年、ソウルオリンピックの前年となっている。まだ国土の開発が進んでいない美しい韓国だ。
そのふるさとの村に待っていたのが、従兄弟とその幼馴染の女性。その3人が、「詩」というものを通して結ばれていったり切れていったりする関係として描かれていく。美しい離島と詩の物語といえば、イタリアの名作「イル・ポスティーノ」を想起する。そういう作品性を期待した。
残念ながら、その文芸部分に関しては物足りない点はある。だが、映画の構成は堅実に立てられ、展開力もあって緩むところはない。最後まで見ていける。
主役のキム・ミンジュンがいい。朴訥な知性がよく出ていた。ヒロインは私ならこの役者ではないだろう。平山幸久のソ・ドヨンは日本人部分が物足りないが、島での出来事や葛藤などでは静かな苦悩がにじみ出ていてよかった。「春のワルツ」に比べると演技に深みが出てきたと思う。
1987年から88年にかけて、私は日韓を数度往復し、もっとも多忙な時代だった。まだ明かりが少なかった韓国の地方都市のことをよく覚えている。この映画でも夜のシーンが美しかった。三好達治の詩を思い浮かばせるような光景がいくつもあった。
機会があったら、劇場で本編を見てみたい。
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