夜更けにくちなし
初夏の鱧(はも)。京料理はやはり繊細だ。小骨の多い鱧が端正な料理に仕上がって出てくる。
四条木屋町のこていな割烹でたっぷりいただいた。S先生と杯を交わしながらと書きたいところだが、先生は下戸。私はビールで先生はお茶。その組み合わせで、鱧料理を堪能した。
西陣生まれで生粋の京男のS先生は京都のうまいものやをよく知っている。丸田町、今出川から四条までのエリアでこれまでにいくつ食べ歩いたことか。
先生と話しながら食べていると、話題が面白くどんどん変化して時間があっと言う間に過ぎる。今夜も9時近くまで話し込み、美味しい鱧と胡瓜のあえもの、鱧天、鱧寿司などをしっかり食べた。
この最後の寿司が少し余分だったか。胃にやや負担になった。先生と別れてホテルに戻ったものの、おなかがぱんぱんに張っている。このままでは眠れない。少し運動でもしなくてはと、小雨降る四条通りに出た。まっすぐ行けば八坂神社。四条大橋をわたり南座の前を通って八坂さんへ。境内には大祓式の看板が立っており、老舗の小田原提灯が幾百もぶら下がっていた。作家の家田荘子の名前もある。提灯の灯りが雨に滲んで美しい。
右手に折れて、石塀小路のほうへ向かう。夜10時近い時分で、小雨が降っているから人影はほとんどない。石畳に響く靴音は私のものだけ。心地よい。傘をたたんで、顔を天に向ける。小さな雨粒がぱちぱちあたって気持ちがいい。路地を抜けると高台寺下に立っていた。
誰もいない。公園の街灯に雨の膜が出来てぼんやりと浮かんでいる。雨空を見上げると、高いところのお月様に雲がかかっていた。なんだ、雨月夜だったのか。
かすかにあまい匂いがしてくる。きょろきょろ見回すと、あった。白いくちなしの花だ。顔を寄せるとあまさがさらにきつくなる。夜更けにくちなし、か。井伏みたい。
来られた記念に下のランキングをクリックして行ってくれませんか
人気blogランキング