立って洗う/座って洗う
中国からの留学生Rさんが、日本へ来ていちばん不思議におもったのは、お風呂で座って洗うことでしたと語る。そんなこと当たり前でしょと言いかけたが思い直した。たしかにその通りかもしれない。日本人はみな洗い場で座って洗う。Rさんが見た光景は銭湯だったからだが、内風呂でも日本人は体を曲げて、座って洗っている。近年増えている狭いユニットバスなら湯船の外で洗うことはなくなっているかもしれないが、湯槽と洗い場が併存する日本式であれば、みんな座って体を洗う。日本独特のスタイルだなんてこれまで思ってもみなかった。
Rさんはパリで生まれ育って、7歳のときに香港へ移住し、アメリカにも数年いたというコスモポリタン。東西の文化にも詳しい。その人がいうのだから、座って洗う方式は日本独特の風習なのだろう。
まず、日本以外の国では風呂にみんなで入るということはほとんどしないそうだ。お風呂はトイレと同じ個室のようなもので、誰かといっしょに入るなんて習慣はありませんと、Rさんは主張。しかも体を洗うときはシャワーを使いながらだから立って洗うことになる。
なによりも、お風呂に入る回数が日本人に比べて香港もパリもきわめて少ない。毎日入浴するなんて習慣はない。熱いお風呂に肩まで体を沈めて、お湯がざあざあこぼれて「ああいい気持ち」といって悦に入るなんてことはよその国ではなさそうだ。
昨日の美大の学生の授業でのやりとりで飛び出た話だ。今回は放送局見学をしたあとの授業ということで、食堂でうどんを食べながらドキュメンタリーの企画について全員で考えた。そこで、面白いネタとして飛び出たのが、お風呂の習慣、ウォッシュレットのトイレ、ラブホテルのノート、人見知り、などであった。
メンバーの黒一点のKくんは、ラブホテルのベッドの側に置いてあるノートが面白いということを開陳した。ネタとして書いているのかもしれないが、そこにはホテル利用者の人生や趣向がほのみえて、ついつい読んでしまうという。(おいおい、そんな発言をしていいのか。あんたもそこにいるということなんだけど)屈託なく、Kくんは話を続ける。
最近読んだなかで面白かったのは、47歳の埼玉の主婦と23歳のたっくんの関係について書かれた文章だった。埼玉の主婦は熱く記していた。家に帰れば旦那と子供の食事の世話が待っていて、考えるとさびしいが、ここにいるときだけはたっくんが命。と記していたそうだ。しかも、ご丁寧にその記事には別の利用者の「コメント」まで付いていたそうだ。たっくんの意見も知りたいものだねえと、水を向けると、「今度、調べておきます」と律儀に答えるKくん。
それにしても47歳主婦と23歳の組み合わせはどうなのだろうと、私は挑発。それまで黙って聞いていたTさんが口を開いた。
「今、二人は夢中になっているときだから、こんな心境を主婦は書いているけど、いざ離婚したら、お互い白けるのじゃないでしょうか」と鋭い指摘のTさん。彼女は将来作家を志望するだけあって、人間心理の洞察が深い。
「ラブホテルで分からないのが、備え付けられたカラオケだ。誰がどんなときに使うのだろう」と、性懲りもなく私は再び挑発した。
ホテル評論家のKくんは「それはフリータイムを利用するのですよ。その時間帯であれば料金は高くないし。この間もオヤジの声ががんがん響いていました」とすかさず論評。現代のラブホテルは大人のアミューズメントパークらしい。
此の話題の間、1年生のNさんは黙って(興味津々で)耳を傾けていた。
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