しろがねの森の春
都内にも深い森がある。しろがねの森もそのひとつ。昼下がり、カメラと双眼鏡をもって出かけた。植物園となっている園内にはあちこちに植物の表示がある。それを手がかりに春の花をひとつひとつ愛でる。ひとりしずか、山吹草、しゃげ、にりん草、すみれ、など黄色や紫の花があちこちに開いている。わずか一月前には灰色だった園内がうって変わって華やかな花園。
園の中央に大きな池があって、ほとりの片側は桜並木となっている。
池の水がぬるくなり、メダカ、泥鰌、が走り回りザリガニがゆさゆさと活動していた。その池に桜の花びらが舞い降りる。風下のほとりには花びらの筏。
桜が散り初めとなっていた。風も吹かないのに花びらがちらりほらり。時折、ざざーっと無数の花びらの群舞。桜並木を行く人たちもたちまち足を止めて枝を見上げる。信じられない風景が目の前にあると、どの顔もほころんでいる。私もベンチに座り込んでその光景に見入った。
春が行く。水面の光がほとりの木に反射して、幹にゆらゆら縞模様が現われる。花吹雪は水面上ではゆっくりと落ちるので雲霞のようだ。
園内を歩く。足元にヒトリシズカがひっそりと咲いている。花というほどの彩りもない清楚が好もしい。山吹の花、ヤマブキ草の花、森のなかの灯りのようだ。
日陰の沼にゴイサギがいた。木陰にひっそり立っていた。動かない。双眼鏡を取り出してしばらく観察した。やがてゴイサギは活動を始める。浅瀬をあちこち歩き回る。どうやら餌の魚を探しているようだ。
奥の森まで遠出しないで、池の木橋を渡って園の出口に向かう。冬の間は蒲の林だった汀がすっかり干上がっていた。つがいの鴨が水遊びをしていた。
古今集の巻2にある歌を思い出した。
春ごとに花の盛りはありなめどあひ見むことはいのちなりけり
まさに幾度もめぐり来る春ではあるが、今年の春はひときわ私にとって思いの深いものとなっている。寒いときの病から、ようやく立ち返ってくることが出来た春。
園の出口に近い草むらにしゃげが群生していた。アヤメ科の植物で、たしか故郷(くに)ではキツネショウブと呼んだと記憶する。加賀の山中にある亡父の墓の周りにたくさん咲いていた。
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しゃげ