順不同
春は別れと出会いの時期。昨日はある先輩の別れの花見が昼時にあった。参加するつもりであったが、秋の企画の予算書作りに追われてとうとう行きそびれることになった。
送別の会は昼休みに代々木公園まで足を伸ばして花見と兼ねて企図されていた。送られる人は20年近く同じ職場にいたから、別れを惜しむスタッフは多い。夜の宴会となると足並みを揃えるのが難しいので、昼食時にあわせたのだ。昨日は気温も上がって花見には申し分のない気候となり、楽しい会となったと、参加した者から聞いた。69歳となるその人は、職場を離れても、フリーで番組を作っていくことになっている。3年前に胃の手術をしたのだが、すこぶる健康であり意気軒昂だ。
夕方、学校放送のOBたちが集まる会社に出向いた。ここで契約社員として働くYさんと落ち合い、著名なカメラマンTさんと夕食をいっしょにする予定だった。予定の時刻直前に、そのカメラマンから体調が悪いので病院にいるという電話が入る。80歳を越えているので、大事をとったほうがいいと、夕食の会は取りやめる。残った私とYさんと二人でとりあえず渋谷の駅まで出ることにした。
そのオフィスの白板にはOBたち10人ほどの名札が並んでいる。トップの理事長をはじめ皆70歳前の人たちだ。Yさんは笑いながら、みんなほとんど病気持ち、病院を出たり入ったりしていると告げる。ここ2、3年は物故する者も増えたそうだ。「必ずしも年齢通りに逝かないよ、”順不同”だってみんなで言い合っているのさ」
68歳になるKさんは満身創痍だが、70歳になるIさんは元気で毎月のように娘がいるタイへ出かけている。かと思えば私と同年の62歳のS君も糖尿病が悪化して外出も不如意となっている。ふむ、まさに順不同だ。
Yさんと東急本店そばの寿司屋に行った。「朝開き」という岩手の辛口の日本酒をちびちびやりながら、ヨーロッパ絵画の話になった。私はこの人からブリューゲルやグリューネバルトなど北方ルネサンスのことを教えてもらった。美術の師匠である。今から30年前に澁澤龍彦や坂崎乙郎の著書を競って読み合ったなかだ。二人で「空想美術館」という子供向けの美術番組も作ったことがある。あのときの番組司会は、美術評論家の中山公男さんだった。偉大な人物だったが数年前に亡くなっている。たしか中山さんは旧制新潟高校で丸谷才一さんと同級生だったはずだ。丸谷さんはまだまだ元気。
Yさんとは「音楽の世界」という高校生のための音楽番組を担当したことがあった。その番組のキャスターは小泉文夫さんだった。芸大の伝説的教授だ。民族音楽の研究で新しい分野を開き、音楽社会学を日本で最初に確立した。才人であったが、50代で物故した。早い死だった。Yさんとついつい死者の話題ばかりとなる。
そういえば、とYさんは切り出した。詩人の吉野弘さんを一度訪ねて行こうよと誘う。30年前、合唱コンクールの課題曲の作詩をお願いしたことから,われわれと吉野さんの交流が始まった。私は、その後の長崎でも吉野さんを旅人とする番組を作った。Yさんはずっと吉野さんと文通を続けているそうだ。80歳を過ぎた吉野さんは、埼玉を離れ現在は静岡に在住とか。
いい考えだ。もっと暖かくなり、私の健康がもどったら、ぜひそうしたい。
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