半蔵門の桜
国立劇場、3階稽古場に行って来た。清元のお稽古を見学してきた。
8月24日に行われる「芸の真髄」のリハーサルである。清元は今から88年前に2つの派閥に分かれた。宗家といわれる延寿太夫高輪派と梅吉が主宰する梅派の2つである。両者は長い間同じ舞台に立つことがなかったが、今回の公演で一同に会するのだ。その二つの派の総帥二人が本日稽古を行った。
若い宗家、清元延寿太夫と老練な名人清元梅吉。延寿太夫が語って、梅吉が三味線を弾く。演目は清元の名曲「隅田川」。
班女の前の我が子梅若丸。その子がさらわれてしまう。子を求めて班女の前は諸国を放浪して探すうちに狂ってしまう。東国へ訪ね来てやがて隅田川にたどりつく。と、そこで我が子梅若丸の死を聞かされ悲しみに沈む。圧巻は、わが子が弔われたという塚の前に来て班女の前は泣き崩れるという場面。
本日のお稽古でも、この終盤の山場の表現を丁寧におさらいしていた。年長の梅吉さんが穏やかに教示し、熱心な宗家が真剣に耳を傾ける様子。脇で見学していても息が詰まるような緊張がびりりと張り詰める。
見学後、早々と劇場を出ると、目の前に盛りの桜並木があった。濠端だから当然といえば当然だが、あまりの花の美しさに言葉を失う。遠目では動いていないが、枝枝に目をやれば桜はかすかに揺れている。花越しに半蔵門の木戸が見える。回り道して堀側まで行く。「隅田川」を語っていた延寿太夫の心境を思った。彼がおかれた現在の厳しい境遇。悲壮な思いで稽古に望む太夫には、「隅田川」の主題はひときわ心に沁みるものだろう。
4月初頭の半蔵門。寒さを残した大気のなかに、桜はひっそりとかつ華やかに咲いていた。
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