日本映画の高さ
無茶苦茶、映画でも見て気分をすかっとさせたいと思った。渋谷ツタヤで準新作3本借りた。夕食後の8時過ぎから見始めた。退廃した男が、突然30年前の殺人事件を思い出すことから始まるという触れ込みの「フラッシュバック」。主演は新しい007のダニエル・クレイグ。テンポのあるミステリーかと期待したらこれが大外れ。思わせぶりな情況説明が延々と続く。頭の20分を見て放棄。次はヨーロッパの映画でどうやらイギリス製らしいミステリー、「プリテンド」。コペンハーゲン、シチリア、プラハ,間に数年がはさまる連続殺人事件という設定で、監督や役者のことなどまったく知らずにこのDVDを借り出したのだが、話の運びがなんともだるくイライラする。殺人事件のメインの話とは別の捜査する女性刑事の身の上話が思わせぶりだが、いっこうに前に進まない。シナリオが下手なのだ。これも10分で放棄。
最後に日本映画で「ぐるりのこと」を見た。2年ほど前に主演の木村多江がブルーリボン賞の主演女優賞を獲った作品で、リリー・フランキーが共演しているということで興味をもった。これが面白かった。夜更かししてつい最後まで見てしまった。
10年の夫婦の歩みを描いている。年代が分かるのは、夫のフランキーが法廷画家で彼が関与する裁判が、93年から日本で起きた代表的な事件の流れになっているから。むろん、ストレートに事件は出てこないが、宮崎勤、オウム地下鉄、大阪教育大学児童殺傷、などがそれらしく描かれている。まあ、監督のサービスだろうが、結構ワイドショーのノリで見て行ける。これが時間の流れを示すのに巧みな仕掛けだ。
妻の木村多江が子供を身ごもるが嬰児で失う。理由はさだかでないが、生まれてまもなく死んだ子を思い、多江は次第に正気でなくなる。それをフランキーがそばで緩やかに見守っている。露悪的と思えるほど、男女の性愛を具体的に描くが、これは正直言っていただけない。だってストレートな男女は、監督の資質から言って想像的としか思えず、やりすぎの感じになっていてくどい。ただ、そこでの体当たり演技が木村の演技として評価されたのかも。なにより、テレビ的ドラマの枠組みをざくっと超越している作品のカラーには敬意をもつ。
この病んだ妻が恢復するにつれ、日本画を描き始める。やがて、懇意にしているお寺から天井画として所望される。その絵は立松和平の娘が描いたものだということを川本三郎の追悼エッセーで知っていたので興味深かった。いい絵だった。
川本は立松の死を悼んで書いた文章だが、この天井画を見に行ったとき偶然立松の娘と会ったことを記している。彼女は幼い子供を連れていた。立松和平の孫である。孫までいる立松の死を悼みながら、一方子供をもたない川本は羨んでいた。昨年、妻をなくした川本の淋しさを見た気がした。このエピソードが、映画「ぐるりのこと」と絡み合って、私は映画の世界にすっかり引き込まれてしまった。橋口亮輔という監督は繊細でかつアナーキーだ。現代の日本映画のレベルの高さを感じた。
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