無国籍
すばらしいドキュメントを「遅れて」見た。昨年3月に放送された「無国籍〜忘れられた人々」というハイビジョン特集だ。
この番組で、日本に、国籍がない人がざっと2000人もいると聞いて驚いたことから始まる。無国籍−−この社会でどうやって生きることができるのだろうというのが、その人たちの存在を知っての最初の驚きのような疑問だった。
その形態はいろいろなものがあるが、本来の国であった所を難民のようにして出て日本にたどり着いた形や、親が亡命のようにして国籍を捨てるかなくすかして日本へやって来て、そこで生まれた子供たちは当然のようにして国籍をもたないというかもてないままにという形などがある。
番組の主人公は、自身が無国籍である一人の女性。彼女が、無国籍の現場を見て回るという仕組みになっている。5つか6つほどの現場が出て来るが、私はあるベトナム難民の子として無国籍になった女子大生の挿話が一番心に残った。
彼女は京都の大学で学んでいる。親は群馬県に住んでいる。京都で彼女にディレクターが質問する。「あなたは何人ですか」すると彼女はそれには答えないと返事する。そんなことをいくら考えても意味がないからと、やや投げやり気味に返事をする。
そして、シーンが切り替わって、彼女は群馬の実家へ帰省していく。そこには両親が家を建てて住んでいた。一見優雅なくらしだ。だが20年ほど前に、ベトナム難民として此の地にやって来て苦労してその暮らしを築いたことが次第に知れてくる。最初は数家族のベトナム人たちが厚生寮のような施設で片寄せあって生きてきた。やがて、独立して一戸建てにそれぞれ暮らすようになるが、元の寮へ舞い戻った人たちもいた。
それは心を病んだ人たちだった。
偏狭な日本社会にあって、差別や偏見のなかで、心を病むことになったベトナムの人たちだ。
そこへ帰っていったときに、くだんの女子大生はそれまでの見せていた皮肉屋の仮面を振り捨てる。必死になって平静をとりつくろうとするが、彼女の美しい瞳から美しい涙が次から次へと溢れてくる。そこで語る言葉のなんという美しさ、凄さ。言葉でまとめることができないほど、映像的な秀逸の表現だ。
この点は、DVDを見たばかりの今の段階では私は語れない。もう少し時間をおいて考えたい。
ただ、シークエンスは久しぶりに映像のもつ力ということをあらためて認識させてくれた。私は最近になく感動した。
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