ケンサンロー
新学期が始まると、新入生歓迎コンパがあちこちで開かれる。
花の季節とあいまって、巷は浮き立つ。
今から、80年近く前、評論家の花田清輝は鹿児島の七高に入学した。
新歓コンパの自己紹介で、自分はナポリ近くの町の出身で祖先はイタリアの貴族だと
言い放った。家が没落し流れ流れて、日本のここ鹿児島に来るにいたったと、
朗々と演説したのだ。席にいた全員あっけにとられた。
そして、花田の顔を見てさもありなんと納得したという。彼は当時の人気俳優
ビクター・マチュアそっくりの美男だったのだ。マチュアは「聖衣」などローマものと言われた
時代劇のヒーローだった。
次も、新入生の話。
大江健三郎さんが東大に入学して友達同士で名乗りあったとき、彼は自分の名を
「オーエ・ケンサンロー」と発音した。友がいぶかしむと、
「四国の山奥では、こういう発音をするのです。そこには独特の文化があるのです」
といって煙に巻いたそうだ。
大江さんは謹厳な人と思われているが、実際はなかなかユーモアに富んでいてサービス
精神の旺盛な人物だ。
このエピソードも、そういうサービスだとずっと思っていたが、
今朝伊丹十三の著作を読んでいて、あっと思った。
松山の高校時代伊丹は大江さんのことを「ケンサンロー」と呼んでいたのだ。
類稀な才能をもった伊丹は先年死去した。彼が今も生きてあったら、大江文学の
新しい映像作品を、われわれは見ることができたかもしれない。それが惜しい。
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