桃カステラ
長崎から病気見舞いとして桃カステラが送られて来た。カステラの頭に砂糖菓子の桃がのっているものだ。甘さがいささか多いが、甘いもの好きの長崎人は目がない。長崎では3月の桃の節句にお祝いのお菓子として食べる習慣があるが、おそらく春到来と病快癒をかねて贈ってくれたのだと思う。
2月も半ばを過ぎると、長崎では日脚が急速に伸びる。いつのまにか日が長くなったなあと感心していると、時折猛烈な寒波が襲う。冬終盤の長崎は複雑だ。街路の南京ハゼもすっかり葉を落として、南天ほどの大きさの白い実が冷たい風に揺れる。寒い日ほど、日没の風景は美しい。血のような真っ赤な夕雲が空一面にかかる。
長崎駅前にある26聖人記念館は職場の裏にあったので、時間があるとよく行った。キリシタン関係の文物が陳列されている。なかに明治初年に起こった「浦上四番崩れ」の遺品、三尺牢があった。拷問のときに使われた品物でオリジナルではないが往事のものを復元してある。三尺四方の炬燵のようなやぐらで、ここにキリシタンを押し込めて改宗を迫ったという拷問具。怖くて正視できないのだが、つい目がいってしまうのだった。こんな狭い所に押し込められ自由を奪われるぐらいなら、私ならすぐに信仰を捨て転ぶだろうと、自分の弱さばかりが気になる品だった。
先日、開腹手術を受けて、麻酔から覚めたとき、私はベッドにくくりつけられていた。手足はベッドの革ひもにつながれてあるらしく、体力も失せているので、いくら体を揺さぶろうとも起き上がることができない。立ち会った息子に、このひもを解いてくれと頼むが、今動いたら傷口が広がる、安全のための措置だから我慢しろと説得された。子から諭される親という立場も辛いが、なにより拘束されているという実感から早く逃れたいと苦悶した。三尺牢の恐怖がよみがえった。
同期会の案内が来ていたので、病気恢復中なので欠礼するとメールをしたら、幹事からどうしたのかと電話があった。年末年始のドタバタを告げると、「それは大変だったなあ。でも恢復は順調なんだろ」と聞かれた。おかげさまでと答えた。
すると、幹事はあるメンバーの名前を口にした。彼は年末に頭のなかに腫瘍が発見されて手術を受け、現在闘病しているとか。車椅子生活を余儀なくされているそうだ。みんな、いろいろあるんだな。
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