御茶漬けの味
寒いようでも陽が出れば暖かい。やはり関東は北陸より温暖なのだと思う。久しぶりによく寝た。
ゆっくり起き上がって、前の法務省管理の空き地を眺める。先週まであった銀杏はすべて葉が落ちていた。
大磯図書館の借りた本は今日中に返却しよう。その前に、もういちど中野孝次の『死を考える』(青春出版社)に目を通しておこう。
セネカの言葉が出て来る。
《幸うすき人間どもにとって、まさに生涯最良の日は逃げていく。》「人生の短さについて」というなかの文言だ。
ついつい、目先のことや金や名声に目が眩んで、先のことばかり考えてしまう幸うすい、人間という存在。そんなことにかまけたところで、人生はよくなるわけでもないのに、そうやっていきてしまう人間。
《ますます良い生活ができますようにと、ますます多忙をきわめている。生活を築こうとするのに、生活を失っているのだ。》
これは明日に依存していて、今日を失っているにほかならないと、セネカは語る。
その通りではないか。聖書にもある。「明日のことを思い患うな。」明日のことは明日にまかせればいいではないかと。こういう説話は幾度となく聞いてきたはずだが、今回の母の死のなかで、あらためて自分に突きつけられるような気がする。
新年早々に手術をして胃を切るとすると、美味しいものをふんだんにというわけにもいくまい。今のうちに食べたいものを食べておこうと思い立つものの、さて何を食べたいかと、冷蔵庫をひっかき回すと、塩シャケの焼いたやつが、アルミホイールにくるまれてあった。
急に御茶漬けが食べたくなった。
湯を沸かし、ほうじ茶を入れる。冷や飯の上にたっぷりお茶をかけ、シャケをむしり取りながら食す。
うまい。
話は違うが、中野孝次のような教養人が、きわめて分かりやすく人生哲学を説くことに感心する。セネカや「正法眼蔵」の言葉を適切に切り結ぶ能力(ちから)に端倪すべからざるものがある。
そこへ行くと、五木某の「親鸞」とかなんとかという本のうすっぺらさよ。彼は、70年代にスペイン戦争の意義などを説いて、若者に反乱を促したことなどを、どう総括しているのだろう。彼が人生訓を垂れることの愚劣さ。
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