冠雪した富士
藤が丘の病院からまっすぐ西に富士山が見える。大山と丹沢の間から白い峰をのぞかせている。母の点滴のチューブ越しに見える富士は淋しい。
リルケの詩に人の死について語っている部分が、古井由吉の訳で紹介されていた。
《・・・もどかしい身振りとともにひとたび宇宙へ裂けて散った後、粉砕された世界として、いまや遠い星々から、再び地上へ穏やかに、春の雨のごとく降る、かのように、と。》
人は裂けて砕け散った存在となったあと、そのこまごまとしたものが、春の雨のように密やかにこの地上に降り落ちて来るというのだ。
全なる一つのものが砕けたあとでは、その原形をすべて失うのではない。だが細片は回収されても、その集まったものが元の姿とはいえない。細かく分けられた「私」の分身たちは大きな流れに沿って、再びこの地上に降りそそぐ。ひそやかに、ひめやかに。
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