古井戸
古井戸に落ちて半月花野となり
ジョアン・アレンの『ママが泣いた日』をみた。3、4年ほど前の映画だ。愛人と失踪した夫のことを怒っている妻の話である。物語はどうでもよい。映画の後半で、その夫の消息が知れる。自宅の前の森が開発されることになり造成工事が行われると、古井戸が発見される。そこから腐乱化した夫が発見されるのだ。つまり、夫は駆け落ちなどをしたわけでなく、不慮の事故に遭遇したわけだ。
大磯、ツヴァイク道の麓に草原がある。昔、そこに家が建っていたようだが、今はかづらや夏草が生い茂る。そこに目立たない古井戸がある。空井戸となっているが穴はやや深い。ここに落ちたら誰も気がつかないだろうなあと思わせる深さだ。
誰も通らないツヴァイク道を歩いて、この井戸まで来ると、ここに落ちたらどうだろうという誘惑にいつも駆られる。まわりには古墳が一基と防空壕が2つあるだけ。人跡はほとんどない。ここに落ちれば発見されるまで半月はかかるだろう。むくろとなるか白骨となるか。江戸時代であれば野ざらしか。
野ざらしを心に風のしむ身かな
つづけて見た日本映画「けものみち」。松本清張原作で40年前に作られた東宝映画だ。主演、池内淳子、池部良。監督、須川栄三。よく出来た映画だった。脚本も須川が書いているが、この人はもっと評価されていい。清張らしい社会派のドラマだが、保守政党の裏側に潜む右翼の闇を描いている。そこに登場する政治ブローカーや右翼の総帥たちの入り乱れるさまを「けものみち」と清張は見ている。唐突だが、古井戸が横たわる場所というのも「けものみち」こそふさわしいと思う。
さらに「ナイト・アンド・ザ・シティ」を見た。ロバート・デ・ニーロ, ジェシカ・ラング が共演するというので期待したが駄作だった。夜遅くまで眼をこすりながら見るほどの作品ではなかった。書籍にしても、秋山駿の「私小説という人生」、ベルンハルト・シュリンクの「帰郷者」も時間の無駄遣いと憎まれ口をききたくなるような作品だった。一方、古典だがシモーヌ・ヴェイユの「重力と恩寵」は読み応えがある。新しい才能と推薦された鹿島田真希という人の小説「6000度の愛」には期待している。
大野林火の句に眼がとまる。
この世よりあの世思ほゆ手毬唄
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