懐かしい感触で
今朝は、雨はあがったがどんよりとしている。6月だというのに肌寒い朝だ。梅雨入りはしていないから梅雨冷えではないだろうが、それのような寒さだ。暑いのより寒いほうがいい私としてはすこぶるいいのだが。
明け方に見た夢は楽しかった。どういうわけか、尾藤イサオといっしょに歌を歌っていた。青春歌謡のようなものを歌いながら楽しいと感じていた。朝7時に目覚めると、ヨダレが一筋口元から垂れていた。爺くさく思われるが、当人は気持ちがいい。と、目覚めたところで鳥の声が聞こえた。家の前を走っていく靴音が懐かしい。通勤か通学か分からないが、誰かが靴音を響かせて急いでいる。
最近、街角でビラを配っている人を見るとついビラを受け取るようになった。娘と同じくらいの若い女性が懸命に美容院やマッサージの広告のビラを配っているのに出会うと、見過ごすわけにはいかない。もらってもゴミになるだけだから、以前は丁重に辞退していたのだが、もらってあげることで、彼女の仕事が果たせるのだと気がついてからはもらうようにしている。
大江さんの『懐かしい年への手紙』という美しい小説がある。この小説のタイトルを私はいつも、「懐かしい年からの手紙」と想起してしまう。懐かしい過ぎ去った時間から、現在の私に向かって書かれた手紙、というイメージが先行してしまうのだ。
津村記久子の『ポトスライムの舟』を昨夜読了した。いい作品だった。芥川賞にふさわしいと思った。この本のタイトルも、私は「ポストライムの舟」と呼びたくなる。なぜ、こういうふうにして錯誤した認識にしようとするのだろう。
「ポトス」の主人公ナガセは40代女性。奈良の工場で働いている。4年制の大学を卒業して総合職で就職したが、4年前からこの工場のラインで時給800円のパートで働くことになった。そして月給13万8千円の契約社員に昇格したばかりだ。3時の休憩のとき、控え室の壁に貼ってあるポスターに見入った。NGOが主催する世界一周のクルージングのポスターだ。カヌーに乗った少年の横に旅行代金が明示されている。163万円。この額はナガセがこの工場のラインで一年間働いて得る手取りと同額なのだ。ナガセの1年は世界一周と同じ重さ。
と、秀逸なオープニングで始まる小説は、現代のいびつな富のネガのような物語だが、けっしてじめじめしていない。不思議な新しさのある小説だ。読みながら、なにか懐かしさを覚えた。
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