子供の名前
今いっしょに仕事をしている仲間に、最近子供が生まれたそうだ。女の子だというので、父にその名前を聞いた。「はるも」。父は、本当は“子”の名前をつけたかったのだけど、かみさんがどうしてもと、残念そうな口ぶりだ。どうやら、母のほうが力をもっているようだ。
はるか、はるな、というのは最近の流行だが、はるもという名前は聞いたことがない。というと、今までに語源を知っていたのは一人だけでしたと答える。
私には、なんとなく想像がついた。
「ハーモニーだろう。」
「そうです。古代ギリシアで使われたハルモニア、調和という言葉からです。よく分かりましたね」と感心されて、いささか私の鼻もぴくぴく。
うちに帰って、食卓でその話をしたら、娘が昨日の電車のなかで見た光景を付け加えた。
若い男とその上司といった二人連れが並んで立っていた。なにげに、会話が聞こえた。
赤ちゃんが生まれておめでとうと、上司が祝福しながら、「名前は何てしたの」と聞いた。
若い男は、すんなりと「アロハ」と答えた。聞いた上司は一瞬あっけにとられたのか、「オオ!」と声を発するだけで、言葉にならなかったそうだ。
その子は男の子だろうか、女の子だろうか。いずれにしても、「アロハ」はちょっと、ね。
大きくなったらからかわれないだろうかと、余計な心配をしたくなる。いくら、新婚旅行でハワイに行ったからとて(かどうかは知らないが、私の推測では)、そこでみごもったからといって「アロハ」はないじゃないのと、余計なお世話を焼きたくなる。
吉野弘さんの詩を思い出す。
――I was born さ。受身形だよ。正しく言うと人間は生まれさせられるんだ。自分の意志ではないんだね――
人間は受身形で存在する。同様に名前も受身だ。自分で名前をつけることはできない。まさに他者の欲望のなかで存在することになるのだと、その厳しい現実をちょっぴり思う。
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