藤井樹(いつき)ゲーム
この間小樽へ行ったじゃない。すっかり岩井俊二の「Love letter」を思い出してしまい、もう一度見たいと思っていた。不思議なことにこの映画はレンタルビデオの棚から消えていて、セルしかない。思い切って4000円のDVDを買って、今夜見た。
いやあ、よかった。だいたいの物語は覚えていたのだが、沁みた。ひょっとすると、岩井作品のなかで一番いいかもしれない。中山美穂が実にいい。一度だけ実物と言葉を交わしたことがあるが、映画のなかの藤井樹は百倍いい。
映画のストーリー。神戸に住む博子は、山で死んだ恋人の藤井樹に宛てた手紙を投函した。あて先は、恋人が中学時代をおくった小樽の住所で、卒業アルバムから知って博子は天国に送ったつもりだった。ところが驚いたことに返事が届く。天国と文通が始まったのかと一瞬思う。実は同姓同名の女子に届いていたのだ。・・・・・
この物語のなかで、二人の藤井樹が図書委員に選出されることが意味をもつ。男の藤井樹は図書室の難しい本をやたら借りまくって、図書カードに自分の名前を残すのだ。数年後に後輩たちがそれに気づいて、藤井樹と記したカードを汗牛充棟のなかから探すことがゲームとなった。藤井樹ゲーム。
――ある出来事を思い出した。「世界はヒロシマを覚えているか」で大江健三郎氏のふるさとを取材したことがある。氏が松山東高時代によく通ったのはアメリカ文化センターだった。そこの英語本の図書室が氏のお気に入りの場所で、そこで「ハックルベリーの冒険」を原書で読んだことをエッセーに書いていた。
私はその場所を探した。アメリカ文化センターそのものは閉鎖され建物もなくなっていた。が、蔵書はそのまま松山市の施設に収蔵されていることを聞き込んだ。そこで、その建物に向かうと、ある地下室の大きなフロアに乱雑に雑誌や本が積まれていた。
私は半日そこにこもって「ハックルベリーの冒険」を探した。そして見つけた。どきどきしながら裏表紙についている図書借り出しカードのポケットからカードを抜いた。すると、そこに「大江健三郎」というあの独特のサインがあったのだ。30年前の記録が残っていた。私は一人で感動した。そんなことを、「Love letter」を見ながら思い出した。
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