今の時代気分って
テレビ番組の企画を考えるコツとして、私は「1ヒト、2ウゴキ、3ジダイ」ということを挙げた。とにかく面白い(むろん、興味深いという意味)人物を探せ、その人物をとりまく状況が動いている人物を。そして、それは時代の気分とマッチするような、ということを、かつて『テレビ制作入門』(平凡社新書)で記したことがある。
新しい番組の企画を考えるよう要請があって、今がどんな時代気分なのか知ろうと二つの作品を参照にした。1つはアメリカ映画「セックス・アンド・ザ・シティ」、もう一つは今期直木賞を受賞した天童荒太の小説『悼む人』。二つとも完全に見終わっていない、映画は早回しで見て小説は3分の一読書といった段階だから正確なことはいえないかもしれない。が、この段階で感じたことをメモしておこう。
まず、映画は最初の10分をノーマルスピードで見て飽きた。物語の仕込みの段階だから説明的な登場人物紹介となるのだが、あまりに常套で饒舌。物語の奔流がまったくない。当方も酒を飲んでいたせいか眠くなり、寝てしまった。今朝、早回しでざっと見ただけの感想になると前置きしておく。
物語の構造は30代女性(これをアラサーというのか)4人組の恋模様、バブルの時代に流行った「金曜日の妻たち」と似ている。あれよりもっとセックスが露骨に出ているが。その恋模様にニューヨークの華麗なライフスタイルが加味された、ファッショナブルな映画とでもいえるのだろうか。
去年の流行語に「アラサー」か「アラフォー」が選ばれたのは、この映画のせいだったのかと、迂闊にも今頃になって思う。いまどきの女性の”欲望”というものは、これほどまでに大きいと知って辟易するのは、当方が完全に時代遅れかジジイになったか、どちらかのせいに違いない。が、もう一つの可能性は、この映画の背景がアメリカのサブプライムローン破綻以前の時代だったからということもある。アメリカがノー天気に消費社会を楽しんでいた時代だったということ。つまり、今の時代気分とは本場アメリカですらも違ってきてるのじゃないだろうか。昨日もアメリカで6万人のリストラが行われていると、報じているから。
まあ、この映画を前提に、日本の視聴者を対象の番組を企画しても見てくれる可能性は低いのではないかと思った。
小説『悼む人』は少し気になる。悼むとは亡くなった人の冥福を祈ること。なんらかの不幸で亡くなった人を探して、その人のために悼んであげる人物、坂築静人が主人公だ。まだ物語の前半しか読んでいないから早計なことはいえない。ただ、映画「送り人」が話題になったり、この小説が受賞したりで、なんとなく今の関心が「死」に向いているような気がする。普段、テレビや映画でたくさんの死を見ているのだが、実際の死もしくは死体はほとんど見ることがない。死のリアリティが薄れていて、逆にそれを掴みたがっているのだろうか。この死というある意味で後ろ向きなことへの関心は、今の不況が覆い尽くす日本社会の気分とシンクロしているような気もする。
では、ここからどんな企画が構想できるかというと、ない。あまり、そんな気分をすくいあげて番組を作りたいと、私は思わない。むしろ、今人生の後半にさしかかって、自分の歩いて来た道を後悔して虚脱しているような人たちのための番組を作ってみたい。これは他人事ではない。自分自身も含めて、高度成長時代疾走してきた男たちの現在の無力感。そこから来る空白を埋めるような主題を見つけたいと思ってしまった。
来られた記念に下のランキングをクリックして行ってくれませんか
人気blogランキング