定年祝い
昨夜は青山の「はがくれ」というモツを食べさせる店に行った。Mさんのご所望だったからだ。
Mさんは2ヶ月ほど前に57歳となり定年をむかえた。そのお祝いのささやかな会だ。
3年前に私が定年になったとき、彼は私を銀座裏の美味しいふぐ屋に連れて行ってくれてお祝いをしてくれたのだ。その心遣いがとても嬉しかったから、そのお返しのようなものだ。それにしても、ふぐ屋とモツ屋ではえらく値段の開きがある。それでいいのかと聞くと、M氏はあの頃は酒を飲めたが今はやめていて、食べることだけだから、食べたいのはそのはがくれの美味しいモツだ、というので店を予約して行った。知る人ぞ知る名店で、予約をとるのも簡単でなかった。
宮益坂を登って、青山学院の近くの裏通りにひっそりとあった。店の戸を開けると、モツ焼きの美味しそうな匂いが漂う。
オープンキッチンには白衣の板前さんが二人、かなりの年配。お運びの中年女性が一人、でてきぱき仕事をしている。これはきっといい店に違いない。レバーの刺身がうまそうだ。
二人席に腰を据えて、おまかせにして食することにした。私は瓶ビールをとり、彼はウーロン茶の入ったコップで、まずは乾杯。
「30年間、ご苦労さん。これからもよろしく」
当人は照れくさそうに、まだ13年は働きたいのだがと鼻を指でこすりながら言う。孫が成人するまでということ。この人は臆面もなく孫ぼけを語る。
M氏と私との付き合いは20年になる。因縁浅からないのは、私が脳出血で倒れたことにある。