原田病
20年前にALSという病を初めて知った。体の筋肉が弱っていく病だ。頑丈な成人の男子がわずか半年か一年で体が萎縮して小さくなっていく。その病と闘っている神奈川の患者を取材したことがあった。彼は40歳。発病する前の写真を見ると、身長175センチはある頑健な消防士だった。その人が発病して3年、赤ちゃんのように小さくなり、奥さんに抱かれているのを見たとき呆然とした。
以来、この病について情報があると関心をもつ。長崎にいた頃、長崎大学医学部内科の長滝教授を知った。この人は難病の研究者だったから、ALSについてあれこれ尋ねた。こういう病は自己免疫疾患というと教えてくれた。
人間の正常な免疫システムというのは、自己と、非自己すなわち異物とを区別する。しかし、このシステムが機能不全を起こすと、自分の組織を異物と認識して、自己抗体と呼ばれる異常な抗体や免疫細胞をつくり、自分自身に向かって攻撃することになる。これが自己免疫疾患だ。近年、いろいろな疾患が発見されている。原田病もその一つ。
これは、全身のメラニン色素を持った細胞(髄膜、ぶどう膜、皮膚、頭髪、内耳など)を自分でこわしてしまう病で、100万人に6人ほどが発症するというきわめて珍しい病だ。患者によって症状の程度も差があり、3~6ヶ月程度で症状が鎮まる人まれば、視力を失う人もあるという。症状が一時的に良くなってもぶり返すこともあり、有効な治療法もまだ発見されていない。
この病と作家の森まゆみさんは戦っている。本日、初めて知った。以前、森さんとは「世界わが心の旅」でごいっしょしたこともあった。昨年、私が制作した「闘う三味線」を高く評価していただいた。たまたま、昔の仕事仲間が森さんの知り合いだということで連絡を本日とってくれた。バスの車内にいた森さんと連絡が通じた。再会を約束して電話を切った。その後で、仕事仲間が森さんは今病気と闘っているのだと私に告げた。
驚いた。あんなにシャキシャキと明るい森さんがそんな病を患っているとはこれっぽちも想像していない。森さんは自身のことをブログに記しているということで、「明るい原田病日記」を教えてもらい、読んだ。
タイトル通り、森さんは病にめげずに前向きに闘っていた。が、文章の行間になんともいえないせつなさがあると思ったのは、私の感傷だろうか。
昨日会った先輩でガンと闘うIさんといい、難病にもかかわらず懸命に歩く森さんといい、今の私を励起させる存在だ。
上の文章を書いて3時間後。
まったく迂闊だが、さっき知人に遭って、宮迫千鶴さんが亡くなったことを知った。なんと6月に死んでいたのだ。私と同じ学年で61歳の死、早い。
宮迫さんが登場したのはフェミニズムが勃興した頃、上野千鶴子さんと並んでツルツルコンビでエッセーか対談を著したはずだ。それが、私と宮迫さんとの出会いとなる。アーティストとしても知られ、画家の谷川晃一氏がパートナーだった。彼の息子とのくらしを描いた「ママハハ物語」には読んでおおいに感心した。
その後、代替医療や統合医療への関心、死後の世界、スピルチュアリズムへ関心を広げていく。父のがんによる死を体験をして、現代の医療の限界について考察を始めた。そこに私は魅了された。
同僚で、宮迫さんと仲がいい人がいる。彼女と机を並べていた頃は、よく近況を聞いていたが、2年前にその人が転勤してからは消息が薄らいだ。でも、まだ死期には至らないだろうと思っていたから、今年の6月に病死したと聞いて驚いた。かけがえのない才能を、私たちはまた失ったのだ。
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