荒地の恋
ねじめ正一の最新作「荒地の恋」は面白い。戦後の詩壇を風靡した同人「荒地」のなかでの出来事を描いた作品だ。北村太郎と田村隆一は府立三商時代から友達で、荒地の同人でもあった。
北村が田村の妻明子に恋をして、田村から明子を奪うとともに、自らの妻治子との関係を破壊する。その顛末が描かれている。
前に、北村の詩集を読んだとき、後書きでそういうことが書かれてあったので、関心はあった。北村は朝日新聞の校閲部に25年在籍していたことや、最初の妻と子を海難事故で失ったことなど、小説的興味が以前からあった。それに応えてくれるような小説だ。
この小説はまだ三分の一しか読んでいないので、トータルな評価はまだしないが、労作であることはうすうす感じている。
さて、私もこの出来事の詳細をリサーチしていたら、どう表現するだろうと考えてみた。ここには登場人物はすべて(おそらく)実名で書かれてある。だから、事実関係については実際にあったことであろう。だが、これはドキュメントではなく「小説」だと思う。
主たる登場人物の二人の詩人の内面が書きこまれているからだ。彼らが語った言葉はかなりな程度まで本当に語ったことかもしれない。だが、そういう折の心境は少なくとも作者のねじめには知り得ないはずだから、そう表現されていることはねじめの忖度、類推、憶測で描かれているのだ。
「荒地の恋」を読んでいて、テレビで多用される再現ドラマのような印象を受けた。ねじめも詩人だから、かつ主人公たちと同年輩になったから、その推理はかなり当を得ているかもしれないが、でも、それが当事者の思いであったと確証はとれない。そうである以上この作品はフィクション(小説)と読むのだが、読んでいる最中には、登場人物の意識に私自身も重ねていて、これはあったことと読んでいる自分にはたと気づいて驚くことになる。
来られた記念に下のランキングをクリックして行ってくれませんか
人気blogランキング